オーストリアams(austriamicrosystems)は東京都品川区に新しくデザインセンターを開設し、5月13日にそのオープニングを行った(Photo01)。オープニングにあたっては本国から本社COOのStockmeier博士(Photo02)も来日し、改めて日本におけるビジネスの動向について説明があったので、まずはこちらからご紹介したい。
![]() |
![]() |
Photo01:デザインセンターオープニングのテープカットも麗々しく(?)行われた。一番右が東京デザインセンターマネージャーの篠崎博人氏 |
Photo02:本社COOのDr.Thomas Stockmeier。2013年に同社に入社し、2014年10月から現職である |
amsそのものはオーストリアに本社を持つ半導体ベンダである。Fablessではなく自社のFabをもつIDMであり、汎用品の製造とASICの製造の両方を手がけている。売り上げは昨年実績で言えば6億1400万ドルであるが、2015年第1四半期の売り上げは2014年第1四半期と比較して78%増加しているそうで、その意味では現在急成長を遂げているアナログ半導体ベンダである(Photo03)。
そのamsは2005年から日本子会社として東京都品川区にamsジャパンを設立してきたが、これはいわば販売子会社であって、単に営業拠点以上の域を出るものではなかった。ところが、日本における売り上げやデザイン獲得の増加に伴い、テクニカルサポートなどのニーズがどんどん高まってきた。これをうけ、すでにQAラボは同社内に設置されているものの、もっと本格的に顧客のサポートを行っていくなかでデザインセンターが必要であると認識し、拠点そのものも(同じ品川区ながら)より広い場所に移ると共に、デザインセンターを設置した形だ(Photo04)。
amsの場合、アナログセンサを中心にした製品ポートフォリオが自動車・医療・産業機器業界に受け入れられており、売り上げの絶対値はともかくとして大きな伸びをしめしている。特に同社の場合、汎用品以外のASICが非常に強みであり、このためASICデザイン用のデザインセンターを国内に置くことで、これまでよりも早いTATで顧客のデザインをサポートできるようにするのが大きな目的である(Photo05)。もちろんこのためには人員強化が必要である。それもあり、2012年から2015年までの間に、サポートエンジニアを含むSalesを3人、エンジニアを9人増強して現在amsジャパンの陣営は21人となっている。
今回デザインセンター開設にあたり、拠点を移動したのは、この増えた陣容に対応するためでもある(Photo06)。実際、新拠点はかなりゆとりがある。Photo07は営業側エリアであるが、まだ机などに空きもあるし、配置もかなりゆったりとしている。一方、エンジニアのブースはやや高いパーティションが用意されている(Photo08)が、実は半分以上のブースはこの通り空きの状態である(Photo09)。ちなみに篠崎氏によれば、本国は最大20人のデザインエンジニアの採用予算をつけてくれたそうで、ところがことamsの様なアナログ回路のエンジニアとなると、そうそう集められるものではないのが悩みの種だそうである。そんなわけで、席数は20以上あり、ところが空席のままという状態なのだそうだ。
さて話を戻すと、では現時点でamsがどんな製品ポートフォリオを提供しているのか? というのがこちら(Photo10)。要するにさまざまなセンサであるが、民生機器から医療/産業用まで幅広くラインアップされている。この中で最新のものが健康/フィットネス向けということになる。このあたりについては、同社のプロモーションビデオの方が判りやすいかもしれない。
同社の汎用品の一例が、今年1月に発表された「AS721x」である(Photo11)。要するに外光量に応じて自動的に照明の照度調整を行うと共にネットワーク接続も可能、という照明コントローラであるが、これを2mm×2mmのパッケージに収めて提供できる点が大きな差別化ポイントとなる。他にもさまざまな産業用センサ(Photo12)や医療用センサ(Photo13)、あるいは自動車向けセンサ(Photo14)などを幅広く提供している。
もちろん同社の場合、汎用品よりはむしろ特定顧客向けの専用品をASICの形で提供するのがむしろ得意であり、実際こちらに力を入れているとする。ただASICとなると当然それぞれの顧客別に設計が必要であり、なので13箇所目のデザインセンターを東京に開設した形だ。昨今はASICをASSPや汎用品、あるいはFPGAに移行してゆくという動きがあるが、これに関してStockmeier博士は「確かにデジタル製品ではそういう動きもあるが、ことセンサ分野に関する限りむしろASICにすることで低コストで高い性能と低い消費電力やパッケージを提供できることは変わっておらず、この分野ではASSPや汎用品での置き換えは起きない」と説明した。もっともこれはあくまで同社のFabが提供するプロセスを利用すれば、という但し書きが付く話であり、そこが同社にとっての差別化要因になると考えているようだ。
ちなみにそのデザインセンターであるが、実際にはQAセンターなども兼ねる形になっている。ここでは実際にASICを利用するテスト回路の修正(Photo15)とか測定・検査(Photo16)、あるいは近い将来には顧客と一緒にテストなどを行える設備(Photo17)なども用意されている。
そんな訳でこの東京デザインセンターは最大50人近い人員に対応できるだけのキャパシティを用意しているが、カントリーマネージャーの岩本氏(Photo18)によれば将来的には人員がもう少し多くなったら、関西あるいは中部地方に別の拠点を開設することも考えるという話であった。現在は人員が少ないこともあって東京に集中しているが、例えば自動車関係のTier 1メーカーは中部地方に、産業機器関係メーカーは関西に多く、その一方で医療機器関係は東日本に多い。なのである程度陣容が大きくなったらそれぞれの顧客別に拠点を分散する事を考えているそうだ(実際、「今は新幹線代が結構掛かっている」という話もあった)。ただそのためには、まずは特にデザインエンジニアを充実させるのが急務であるが、頭数を揃えれば良いという訳ではないのが難しいとの事で、このあたりが解決するまで当面は東京デザインセンターが同社の唯一の日本拠点ということになるだろう。