香川真司の"復活"に必要なものとは

4年に一度の祭典「2014 FIFAワールドカップ ブラジル大会」もいよいよ終焉を迎える。すでに大会を去った選手たちはつかの間のオフで英気を養い、所属クラブの一員として新シーズンの開幕を見据える。

その中で、昨シーズンは不振にあえぎ、日本代表としても結果を残せなかった香川真司が輝きを取り戻すためには何が求められるのか。ブラジルでのパフォーマンスから探ってみた。

新監督が初采配をふるうプレシーズンツアー

マンチェスター・ユナイテッドがアメリカを舞台として今夏に行う、プレシーズンツアーの概要がこのほど決定した。7月23日にMLSのLAギャラクシーと対戦した後に、インテル・ミラノ、ローマ、レアル・マドリードが集うインターナショナルチャンピオンズカップに参戦する。

ワールドカップ・ブラジル大会にてオランダ代表を4強に導いたルイス・ファン・ハール氏が新監督に就任。その名将が初采配をふるう同ツアーは、帯同メンバー入りした香川にとっても、プロ人生で初めてノーゴールに終わった昨シーズンからの捲土重来を期すための第一歩となる。

デイビッド・モイーズ前監督に率いられた昨シーズンのマンチェスター・ユナイテッドの軌跡は、屈辱に満ちていたと言っていい。無冠に終わったばかりか、今シーズンのヨーロッパのカップ戦への出場権も獲得できなかった。プレミアリーグを代表する名門にとって、実に四半世紀ぶりに直面する異常事態だ。

モイーズ前監督が香川を重用しなかった理由

シーズン終盤の4月にモイーズ前監督が解任されたのは遅きに失した感があり、香川を重用しなかった采配にも早い段階から疑問符がつけられた。しかしながら、ワールドカップ・ブラジル大会における香川のパフォーマンスを見ていると、モイーズ政権下で実質的に「干された」理由がよくわかった。

香川は守備が苦手だとよく言われる。的を射た指摘であるが、だからといって守備を免除されるわけではない。全員守備と全員攻撃が求められる現代のサッカーにおいて、いわゆる「王様」でいられるのはリオネル・メッシ(バルセロナ)ら、ひと握りのスーパースターだけだ。

そのメッシですら、アルゼンチン代表の大黒柱として出場したワールドカップのベルギー代表戦では、泥臭い守備も厭うことなく勝利を目指した。翻って、香川はどうだったのか。コートジボワール代表との初戦で逆転を許した、後半21分のシーンを思い出してほしい。

ブラジルの地で決壊した日本の左サイド

日本陣内の中央でセカンドボールを拾ったFWジェルヴェ・ジェルビーニョが、前方のFWウィルフリード・ボニーへ短い縦パスを通す。日本のマークが中央へ寄ったところで、ボニーは右サイドを攻め上がってきたDFセルジュ・オリエへダイレクトでボールをはたく。

このとき、オリエをケアする日本の選手は皆無だった。香川が埋めていなければいけないスペースだったが、本人はゆっくりと自陣へ戻ってきただけ。わずか2分前にもオリエに攻め上がられ、ノーマークの状態から正確なアーリークロスを上げられて同点とされている。

このときも香川は持ち場を離れ、中央にシフトしていた。反省しているのならば同じ展開を許さないはずだが、残念ながらまるでVTRのようにオリエのアシストからジェルビーニョの決勝ゴールが生まれている。コロンビア戦の後半に喫した3失点も、すべて香川のサイドを破られていた。

意識を変えれば守備面の課題は改善できる

もちろん香川一人に責任を帰結させるつもりはないし、左サイドバックの長友佑都(インテル・ミラノ)が攻め上がった背後を相手も狙ってきたのも事実だ。しかし、これだけは言える。守備は「苦手」ですむ問題ではなく、当事者の意識次第ですぐにでも改善できる、と。

華麗にボールを奪えと要求しているわけではない。ボールホルダーに自身の姿を見せ、コースを切るだけで相手の攻撃を遅らせることができる。事前に危険なスペースを埋めることも然り。ボールを失った直後に攻守を切り替え、そうした地味な動きに徹しなければチームは成り立たない。

香川がドリブルやパスで仕掛け、失敗に終わった後に天を仰ぎ、プレーを止めるシーンをよく目にする。悔しがる暇があるのならば、すぐに守備の「一の矢」と化すべきだ。ユナイテッドのチームメイト、イングランド代表のFWウェイン・ルーニーは攻守の切り替えが非常に速いからこそ絶大なる信頼を勝ち得ている。

体に染みついた悪癖を消し去る必要性

香川は守備が「苦手」なのではなく、守備への意識が「極めて低い」のだ。体に染みついている悪癖だからこそモイーズ前監督も香川をピッチに送り出さなかったはずだし、日本代表のアルベルト・ザッケローニ前監督もギリシャ代表とのグループリーグ第2戦で先発から外している。

ワールドカップを終えた香川は自身のブログを更新し、その中でこう綴っている。

「自分を改めて見つめ直さなければならないと感じています」。

ドルトムント時代やアレックス・ファーガソン元監督時代のように、甘やかされる状況はもはや望めない。守備をおろそかにしていた部分を認め、強い意志のもとで変えていかない限りは、ファン・ハール体制でも、あるいは新天地へ活躍の場を求めても同じ状況が繰り返されるだろう。

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筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。