世界銀行が4月に発表した推計では、今年、中国のGDPが米国を抜いて、世界一になると言う。中国の2013年のGDPは米国の5割程度しかない。今年いきなり、GDPが倍以上になるのかと驚いてしまうが、そうではない。

「中国GDPが世界一」は、今までとまったく異なる方法でGDPを計算した場合の話だ。あくまでも計算上の話だ。中国の通貨「人民元」の米ドルに対する為替レートは、中国政府の規制によってコントロールされている。輸出競争力を保つために、中国の通貨は、人為的に安くなるように管理されている。もし、このように管理がされていない場合は、人民元はもっと高いはずだ。

GDPの世界規模比較は、米ドルに換算した上で行われる。世界銀行は、人民元の本当の価値を「購買力平価」によって推計し、その購買力平価に基づくGDPを計算しなおしている。そうすると、中国のGDPは「2013年が米国に次いで世界第二位、今年米国を抜いて世界一位になる見込み」という話だ。

私は、中国の国内情勢を考えると、中国のGDPが拡大を続けるのは、非常に困難と考えている。

中国経済の不安は、中国はまだ完全な資本主義国になっていないことに根ざしている。中国は、もともと社会主義国であった。1980年代に資本主義革命を進め、社会主義の国家体制を残したまま、実質的に経済のしくみを資本主義に近づけていった。その結果、現在、社会主義と資本主義が混在している国になっている。

社会主義では、国家がすべての経済を管理していた。「計画経済」といわれるものだ。中国の公共投資には、今でも計画経済の考え方が一部残っている。「鉄鋼生産を増強する」「高層住宅の供給を拡大する」「資源開発を進める」などの方針をいったん決めると、経済環境が変わってもやり続けることがある。特に、中国の地方政府が行う公共投資や、一部の国営企業の設備投資にその傾向がある。

鉄鋼在庫が過剰でも、マンション供給が過剰でも、石炭などの資源が過剰でも、計画通りに投資が進められることがある。民間企業ならば、計画を中止するところで、ブレーキがかかりにくい。銀行が金を貸さなければ、無謀な投資は行われなくなるのだが、銀行を通さない「理財商品」などを通じて、資金供給が行われているのが、問題を深刻にしている。

中国政府は、この問題に気づいていて、長期的に過剰投資を抑制する構造改革を実施すると表明している。ただし、急に景気が悪化すると、社会不安が起こるので、少しずつ調整していく方針だ。最近は、国内情勢を考慮して、投資の上積みに動いている。過剰投資を容認しながら、長期的に構造改革を進めるむずかしい舵取りを行っているわけだ。

中国には、将来有望な分野もある。それは個人消費の成長だ。中国では、今まさに富裕個人が増加している。中国のGDPの約半分は消費だ(政府消費も含むベース)。消費は、政府の計画によって行うものではなく、個人の自由意思によって行うものである。それが、本格成長期を迎えている。

私は、中国GDPの半分を占める消費が年率10%の成長を続けることは無理ではないと予想している。つまり、消費だけで中国GDPは年率5%成長できることになる。しかし、中国政府のGDP成長ターゲットは、7.5%。直近の成長率は7.3%くらいだが、構造改革に真剣に取り組むならば、5%成長くらいに落とすことが適正だろう。中国は、危うい高成長を続けていると考えられる。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。