東京大学は4月28日、新たな原子膜材料として注目される二セレン化タングステン(WSe2)の電界効果トランジスタ(FET)を用いて、電圧によって左右の回転方向を制御できる円偏光光源を開発したと発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターの岩佐義宏教授(兼 理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー)らによるもの。同研究科 物理工学専攻の岡隆史講師、オランダフローニンゲン大学の叶劍挺准教授らと共同で行われた。詳細は、米国科学雑誌「Science」の速報版「Science Express」に掲載された。

すべての光は、右回り円偏光と左回り円偏光の重ね合わせでできている。円偏光光源は、3Dディスプレイ(表示された映像が立体的に見えるディスプレイ)に一部使用されており、将来的には量子コンピュータへの応用が期待されている。しかし、従来の円偏光を生成・制御する手法では、円偏光光源の微細化に限界があり、電場によって制御することは困難だった。

そこで今回、研究グループでは、WSe2のFETを用いて、電圧によって左右の回転方向を制御可能な円偏光光源を開発した。同光源は、WSe2の特異な構造と電子の状態を利用し、電圧によって左回りと右回りの円偏光を切り替えることが可能な円偏光光源の原理を提案・実証するものであるとしている。

しかし、現状では、円偏光度の制御はまだ十分なものではない。今後、デバイス作製技術の向上により、さらに大きな円偏光の度合いを制御できるようになることが期待される。また、"キラル発光トランジスタ"といえる新しいタイプのデバイスとして、高度集積化を通した応用研究、そして、単一光子源として基礎研究に寄与していくことが予想されるとコメントしている。

キラル発光トランジスタの模式図