大阪大学(阪大)は、死細胞から放出されるDNAがアレルギー反応を引き起こす炎症性T細胞の分化を誘導することを発見したと発表した。

同成果は、同大免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)の斉藤隆 教授(理化学研究所統合生命医科学研究センターグループディレクター)らによるもの。詳細は「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

生物の免疫システムは、自己と異物を見分け、病原体を排除する仕組みだが、花粉などの病原体ではない異物に対して過剰に反応すると、花粉症などのアレルギー疾患が発症することとなる。アレルギーの発症にはヘルパーT細胞の1つ「Th2細胞」が、重要な役割を果たしていることが知られている。仕組みとしては、抗原にさらされたことがないT細胞(ナイーブT細胞)が花粉などの抗原に反応することでTh2細胞に分化するところまでは分かっていたが、その詳細な分化メカニズムは不明のままであった。

そこで今回研究グループは、その仕組みの検討を行った。具体的には、核酸(DNAやRNA)がT細胞の機能に及ぼす影響を調べたところ、自分の細胞由来の核酸が、ヒストンまたは抗菌ペプチドと複合体を形成することにより、T細胞の活性化を増強することを発見した。また、核酸による刺激が、ナイーブT細胞からTh2細胞への分化を強く促進することも確認したという。

生体内における核酸の源は死細胞と考えられていることから、死細胞の存在下でナイーブT細胞を活性化してヘルパーT細胞の分化を解析したところ、Th2細胞への分化が特異的に促進されることが示されたという。これは、DNA分解酵素の存在下では観察されなかったとのことで、死細胞由来のDNAがTh2細胞への分化に関与していることが示された結果となった。

死細胞から放出されるDNAによるTh2細胞の誘導

この結果について、研究グループでは、花粉やハウスダストなどの抗原が体内に侵入し、炎症反応が起きることで多くの細胞死が誘導されることからも、死細胞から放出されるDNAが炎症性のTh2細胞への分化を強く促していることが示唆されると説明する。

さらに、分化メカニズムの解明に向け、遺伝子レベルでの解析を実施したところ、Th2細胞への分化に関与する遺伝子群(GATA-3、IL-4など)の発現を抑制する転写因子T-betの発現が、DNAの刺激によって強く抑制されることを発見。DNAの刺激によりTh2細胞への分化に必須の転写因子GATA-3やTh2細胞に特徴的なサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13 など)の発現上昇が誘導されることが示されたこととなった。

DNAによるTh2細胞分化の分子メカニズム

なお、研究グループでは、今回の成果から、今後、細胞外のDNAを標的にしたアレルギー疾患の治療法および予防法の開発に発展する可能性が考えられるとするほか、T細胞に特異的と思われるDNAセンサの解明は、アレルギー疾患の予防法・治療法の開発に新たな手掛かりを与えることが期待され、大きな課題になると考えられるとコメントしている。