東京大学(東大)は、遺伝子導入の効率と選択性に優れた新規デリバリシステムとして、三層構造の高分子ミセルベースの光応答性ナノマシンを構築し、皮下に腫瘍のあるマウスの全身に投与し、固形がんに光を照射することで、固形がんへの光選択的遺伝子導入に成功したと発表した。

同成果は、同大大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の片岡一則教授らによるもの。詳細は「Nature Communications」に掲載された。

同ナノマシンは、「血液成分との相互作用の抑制」、「標的細胞(がん細胞)への到達」、「光選択的な遺伝子導入効率の促進(エンドソーム・リソソームから細胞質への光選択的移行)」、「DNAの核への送達」といった各種の機能をトリブロック共重合体、DNA(標的細胞に導入する遺伝子)、光増感剤が水中で自動会合することによって形成され、親水性の外殻層、光増感剤が搭載された中間層、DNAを内包した内核層という三層の機能性ナノコンパートメントから構成される高分子ミセルに集積化。静脈注射された後、ナノマシンは親水性外殻層により血液成分の吸着を抑制しつつ、がん血管では正常な血管に比べ透過性が亢進していることを利用し、血流からがん組織に集積するほか、ナノマシンががん組織に取り込まれた後は、エンドソーム・リソソーム内に局在し、内部の酸性環境に応用して光増感剤を放出し、そこに光を照射することで、エンドソーム・リソソーム膜を不安定化させ、ナノマシンの細胞質への移行を促進することができ、これにより光を照射した標的細胞にのみDNAを核まで効率的に送達することができるようになるとのことで、光を当てなかった場合と比べ、100倍以上上昇できることを確認したという。

研究グループでは、これまで開発してきた抗がん剤を送達する高分子ミセルについて、現在、臨床試験の最終段階である第3相試験にまで進み、数年以内の実用化が期待される段階にあるとしており、今回の成果により、高分子材料を精密に設計することで、がんに集積する高分子ミセルの機能に、治療タンパク質を産生する遺伝子を光選択的に標的細胞の核まで届ける機能を搭載することが可能となったことから、がんや動脈硬化などのさまざまな難治性疾患の遺伝子治療への応用が期待されると説明している。