理化学研究所(理研)は3月20日、DNAへの非天然型の塩基「5-エチニルウラシル(EU)」の導入と安価な試薬の化学反応によるDNA切断方法を開発し、同化学反応を利用すると簡単な操作でDNAの連結ができることを確認したと発表した。

同成果は、理研生命システム研究センター 合成生物学研究グループの上田泰己グループディレクター、池田修司研究員(当時)、田井中一貴研究員(当時)、松本桂彦特別研究員らによるもの。詳細は米国科学雑誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。

DNAの組み換えを行うためには、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅したDNAを連結することが必要となり、従来は制限酵素でDNAを切断しDNAリガーゼで連結するという方法が用いられてきた。しかし、この方法では制限酵素の認識配列が必要であり、組換えDNAの設計が困難な場合があり、そうした問題お解決に向けたさまざまなDNAの連結方法が報告されてきた。

こうした手法の1つとして、非天然型の塩基をDNA鎖合成の出発点となる分子(プライマー)として使いDNAを増幅した後に、非天然型の塩基を導入した部位でDNAを切断することで、DNA上に突出末端を作るという方法がある。突出末端の配列を厳密かつ自由に設計できるという特長があるものの、過去に報告されている非天然型の塩基「8-オキソグアニン」を用いる方法では、この塩基がDNA複製で変異を引き起こしやすいことや、切断のために酸素バブリングという面倒な操作が必要という課題があった。

今回、研究グループはそうした課題の解決に向け、天然の塩基「チミン」とよく似た構造を持った非天然型の塩基「5-エチニルウラシル(EU)」に着目。

チミンと5-エチニルウラシル(EU)の化学式。天然型の塩基「チミン」と非天然型の塩基「5-エチニルウラシル(EU)」の構造が似ていることが分かる

EUを含む「オリゴヌクレオチド」の切断反応を「高速液体クロマトグラフィ(HPLC)」と「マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI TOF mass)」を用いて調査したところ、メチルアミンのような第一級アミンを含む水溶液中では、EUを含むヌクレオチド部分で特異的かつほとんど定量的にDNAの切断反応が起きていることが確認されたという。

EUを含むDNAのメチルアミンによる切断反応。EUを含むDNAオリゴヌクレオチドの切断反応を、高速液体クロマトグラフィとマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計で調べたところ、メチルアミンのような第一級アミンを含む水溶液中では、EUを含むヌクレオチド部分での特異的なDNA切断反応が起きることが確認された

研究グループでは、この反応を「QBIC(Quantitative Base-Induced DNA Cleavage)反応」と命名。同反応によって切断されたDNAを調べたところ、切断で生じた5'-末端にはリン酸基が付いていることが判明。これについて研究グループは、切断で生じる断片をそのままDNAリガーゼで連結できることを意味するものと説明する。

そこで、QBIC反応の応用として、PCRで増幅したDNAの連結を目指し、DNA自動合成機でオリゴヌクレオチドにEUを導入し、それらをプライマーとして用いてPCRを行い、増幅したDNAの末端部分にEUを含むヌクレオチドを導入。増幅したDNAにQBIC反応を起こしたところ、最終的にDNAが正しく連結された形で得ることに成功したという。この結果について研究グループは、DNA複製においてEUが変異を引き起こしにくいことを示唆するものだと説明する。

QBIC反応を応用したDNAの連結。DNA自動合成機でDNAオリゴヌクレオチドにEUを導入し、それらをプライマーとして用いてPCRを行い、増幅したDNAの末端部分にEUを含むヌクレオチドを導入する。さらに、これらにメチルアミン水溶液を反応させることで、図のようにEUの場所でDNAが切断され、異なるDNA同士を連結できるようになる

なお研究グループでは今後、今回開発された方法のさらなる洗練を進め、普及を目指すとしている。また、EUを含むデオキシヌクレオシドが細胞中でゲノムDNAに取り込まれることから、EUを含むヌクレオチドを酵素的にDNAに導入することも可能だと考えられるとの見解を示しており、オリゴヌクレオチド、PCRなどで増幅したDNAだけでなく、プラスミドDNA、ゲノムDNAなど、さまざまなDNAを切断・連結する方法としての利用が期待できるとコメントしている。