東北大学は3月17日、超高分解能顕微鏡と酸化物薄膜作製装置を組み合わせた装置を開発し、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)単結晶表面上で金属酸化物薄膜が成長する様子を原子レベルで観察したと発表した。

同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の大澤健男助教(現物質・材料研究機構(NIMS) 主任研究員)、一杉太郎准教授らによるもの。詳細は、米国科学誌「ACS Nano」に掲載される予定。

金属酸化物は、多彩な物性を示すことから、高速、かつ低消費電力のエレクトロニクスを構築するための重要な材料である。金属酸化物をエレクトロニクスに応用する研究分野は酸化物エレクトロニクスと呼ばれており、一大研究分野になっている。今回、研究対象となったチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は、酸化物エレクトロニクスにおいて最重要材料の1つだという。精緻なデバイス作製のためには、原子がどのように積み上がって薄膜が形成され、デバイスが構築されるか、という点を理解する必要がある。しかし、金属酸化物の薄膜成長の理解は未だに進んでいない。

また近年では、ペロブスカイト酸化物を活用した人工的な界面構造を作製することによって、電気伝導、磁性、強誘電性、超伝導など、新しい物性を創出する研究が活発に行われている。その代表格として、アルミン酸ランタン(LaAlO3)とSrTiO3の界面における電気伝導性と絶縁性の制御が挙げられる。ともに、通常は絶縁性の物質だが、LaAlO3を成長させるSrTiO3単結晶基板表面が、TiO2面で終端している場合は電気伝導性が得られるのに対して、SrO面で終端している場合は絶縁性になることが知られている。しかし、このような絶縁性の起源は未だ明らかになっていない。通常、SrO終端面を作製する場合、TiO2終端面にSrO層を1層だけ堆積するが、この第1層目の成長について明らかになっていないことが主な要因と考えられる。このように、酸化物エレクトロニクスにおける最重要材料であるSrTiO3単結晶基板上の薄膜初期成長を、原子レベル空間分解能で観察した例はなかった。

今回、研究グループは、パルスレーザ堆積法と走査型トンネル顕微鏡(STM)が連結した複合装置を開発。これにより、SrTiO3基板の再構成表面、およびその基板上に成膜したSrTiO3とSrOx薄膜について、表面構造や電子状態をSTMにより、原子レベル分解能で観察した。

STMとパルスレーザ堆積装置が連結したシステム全体の構成図

使用した基板には、原子が整然と並んでおり(TiO2秩序層)、格子状の模様が観察された。この基板上にSrTiO3薄膜を成長させた。その結果、基板と同一の原子配列が薄膜表面においても明瞭に観察され、SrTiO3基板表面に存在したTiO2秩序層が薄膜表面に転写されていることが分かった。それに対して、SrOx薄膜ではそのような原子秩序は観察されず、SrTiO3基板表面に存在したTi原子は、島状のSrOxの内部や表面に点在していることが分かった。さらに、SrOxの第1層目が形成される際に、基板表面に欠陥が生成することも確認された。

SrTiO3表面の走査トンネル顕微鏡像(15nm×15nm)。格子状の模様が観察されており、表面原子が整然と並んでいることがわかる

(左)0.3層のSrTiO3薄膜堆積後の走査トンネル顕微鏡像(15nm×15nm)。SrTiO3薄膜領域(紫色)では、下部のSrTiO3基板(青色)と同一の原子配列が観測されている。(右)SrTiO3薄膜形成における成長モデル。SrTiO3基板表面に存在したTiO2層が薄膜表面に転写する

(左)0.3層のSrOx薄膜堆積後の走査トンネル顕微鏡像(15nm×15nm)。島状のSrOx薄膜領域(茶色)に加え、SrTiO3基板上(青色)に多数の輝点が観察されている。(右)SrO薄膜形成における成長モデル。Ti原子がSrOx薄膜の内部や表面に点在すること、および基板表面における欠陥の生成が示唆された

今回の研究により、初期成長過程を調べるために、原子が秩序を持って並んだSrTiO3基板を利用することが重要であることが示された。そして、ペロブスカイト金属酸化物が複雑な成長過程を有することを明らかにされた。従来から予想されていた、原子が単純に積み上がるというモデルでは説明が不十分であり、今回、原子の並び方や電子状態も併せて理解することができた。今後、薄膜成長過程を制御することによって、新しい物質の創製や新物性の開拓が期待されるとしている。

また、原子レベル空間分解能で薄膜成長を追跡することによって、多様な成長様式が明らかとなった。このような成長過程の制御により、新物質や新構造酸化物の創製が期待される。また、今回の結果は、ペロブスカイト酸化物界面構造における機能発現原理の理解に役立つことが期待できる。これら界面物性の理解は、Liイオン電池や燃料電池における酸化物界面の制御にも重要であり、それらデバイスの特性向上にもつながる。今後は、真の原子スケールで設計された構造や電子状態と、マクロ物性との相関を明らかにすることが望まれるとコメントしている。