東京大学は10月21日、マウスにおいて脂肪組織に存在する「制御性B細胞」が、脂肪組織の炎症を抑えることを発見し、同細胞は肥満するとマウスのみならずヒトでも減少することを確認、さらに同細胞が作るサイトカインの1種「インターロイキン(IL)-10」が炎症の抑制に重要であることも見出したと発表した。

成果は、東大医学部附属病院 循環器内科 システム疾患生命科学による先端医療技術開発の西村智特任准教授(現・自治医科大学分子病態治療研究センター教授)、同・附属病院の真鍋一郎講師、同大学の永井良三名誉教授(現・自治医科大学学長)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間10月24日付けで「Cell Metabolism」誌オンライン版に掲載された。

近年、食生活の変化や運動不足に伴い肥満が増加しており、心筋梗塞や脳卒中の危険因子としてメタボリックシンドロームが注目されている。腹囲の基準に加えて、高脂血症、糖尿病、高血圧の内2つ以上に該当すると診断され、糖尿病、心筋梗塞や脳卒中の原因となることから、気をつけている方も多いはずだ。

肥満では脂肪組織に慢性の炎症が起き、メタボリックシンドロームに伴う心血管病や糖尿病などの生活習慣病の発症を促進していると考えられているという。その一方で、脂肪組織には多くの免疫細胞が存在し、これまでにマウスにおいて「CD8陽性T細胞」(免疫細胞(リンパ球)の1種)や「炎症性マクロファージ」(免疫細胞の1種)といった細胞が炎症を進めることが明らかとなっていた(前者による脂肪組織の炎症は研究チームが2009年に発見)。しかし、脂肪組織の炎症がどのように始まり、また制御されているのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

研究チームは今回、マウスの脂肪組織に多数の制御性B細胞が存在することを発見。B細胞はリンパ球の1種で、多くは、抗原に応答して増殖し、抗体を生産する。今回の制御性B細胞B細胞の多くは、炎症を抑えるサイトカイン(細胞間でやり取りされる多様な生理活性を持つタンパク質の1種)の1種であるIL-10を分泌しており、脂肪組織の炎症を抑える役割を持つことが見出された形だ。

実験によってIL-10を作れないB細胞を持ったマウスの観察により、肥満に伴う脂肪組織の炎症が悪化するだけでなく、肥満によって生じた糖尿病の状態も悪化することが判明したのである。つまり、脂肪組織の制御性B細胞の働きは、全身の代謝の制御にも大きく影響することが明らかとなったというわけだ。

この脂肪組織の制御性B細胞は、冒頭で述べたように肥満するとマウスのみならずヒトにおいてもその数と機能が低下することも確認された。その結果として、肥満脂肪組織では炎症を進行させる免疫細胞の働きが、炎症を抑える制御性B細胞の働きを上回り、炎症が拡大していくと考えられるという。

今回新たに見つけた制御性B細胞の働きを人為的に強めることによって、脂肪組織の炎症を抑えられる可能性があるとする。制御性B細胞は、肥満に伴う脂肪組織の炎症への新たな治療標的になることが期待できるとした。