医薬基盤研究所(NIBIO)は8月5日、大腸がんの浸潤・転移を促進させる重要なタンパク質「FAM83H」を発見したと発表した。
成果は、NIBIO プロテオームリサーチプロジェクトの久家貴寿研究員、同・朝長毅プロジェクトリーダーらの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、8月1日付けで「Journal of Cell Science」オンライン掲載された。
大腸がんは日本人に多いがんの1つだ。初期の大腸がんは多くの場合、手術で完治することが可能だ。しかし、周辺の臓器などに転移してしまうと手術での完治が見込めない場合があり、抗がん剤治療が行われる。近年、分子標的抗がん剤の開発が盛んに行われており、効果的で副作用の少ない抗がん剤治療法が期待されているところだ。
がん細胞と正常な細胞を比較すると、がん細胞で特異的に量が増えているタンパク質を見つけることができる。それらがんに特異的なタンパク質の働きによってがん細胞は増殖し、浸潤・転移するようになる仕組みだ。研究チームは分子標的抗がん剤の新規ターゲットンパク質を発見することを目的として研究を進めており、今回の研究では大腸がんにおいてタンパク質「FAM83H」の量が過剰に増加していることを発見。そして、そのことが大腸がんの浸潤・転移を促進させていることを明らかにしたというわけだ。
大腸組織の表面は、秩序だって配列されることで1枚のシート状の構造を作っている「大腸上皮細胞」に覆われている。大腸がんでは大腸上皮細胞が秩序だって配列される仕組みに異常が起こり、その結果として、がん細胞が大腸組織から離れて別の組織に転移するようになってしまうのだ。
大腸上皮細胞には「細胞骨格」という骨組みがあり、その骨組みが大腸上皮細胞の秩序だった配列に必要である。FAM83Hは細胞骨格成分の1つである「ケラチン骨格」を制御するタンパク質であり、FAM83Hの過剰な増加がケラチン骨格を壊してしまうことが、今回の研究によって証明された。
さらに研究チームがFAM83Hの機能を詳細に調べたところ、FAM83Hの過剰な増加によるケラチン骨格の崩壊は、FAM83Hががん抑制因子である「カゼインキナーゼIα」と強く結合して、その機能を阻害するためであることが判明。このことは、FAM83HとカゼインキナーゼIαの強い結合が、大腸がんの浸潤・転移に重要な役割を担っていることを示唆しているという。
今回の研究成果から、FAM83HとカゼインキナーゼIαの結合を阻害することにより、がんの浸潤・転移を抑制できる可能性が示された形だ。その阻害剤は新しいタイプの大腸がん治療薬となり得るとしている。