北海道大学(北大)は8月5日、継続的な寒冷刺激や、温度受容チャネルの作動物質である「カプシノイド」の継続的な摂取によりヒトの「褐色脂肪」を増量させることが可能であること、それにより体脂肪が減少することを明らかにしたと発表した。

成果は、北大大学院 医学研究科の岩永敏彦教授、同・米代武司氏(日本学術振興会・特別研究員)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間7月15日付けで「Journal of Clinical Investigation」に掲載済みだ。

肥満は重篤な代謝性疾患の原因となる病態で、エネルギー摂取の減少(食事制限など)またはエネルギー消費の増加(運動など)により治療可能であることは、多くの人がご存じのことだろう。

そして褐色脂肪は、脂肪酸を燃やして熱に変換することでエネルギーを消費する特殊な脂肪組織で、例えば冬眠動物が冬眠覚醒時に急速に体温を上げるのに役立つといった具合だ。またマウスなどの実験動物では、寒冷刺激や温度受容チャネル刺激物質投与により褐色脂肪が増量し、体脂肪が減少することがわかっている。

一方、ヒト成人においては従来より褐色脂肪は存在しないと信じられてきた。ところが最近、通常はがん検査に用いられており、糖の取り込みが活発な組織や臓器を検出する画像診断法「FDG-PET/CT」を用いた研究により、実はヒト成人にも褐色細胞はかなりの量が存在しており、エネルギー消費に寄与していることが判明した。しかし、ヒトの褐色脂肪の増量に成功した報告はなく、体脂肪減少効果の有無も不明だったのである。

そこで研究チームはまず、ヒトの褐色脂肪をほぼ非侵襲的に評価できる唯一の方法であることからFDG-PET/CTなどを用いて、寒冷刺激(17℃の部屋で2時間安静)を6週間行う前後の褐色脂肪の量とエネルギー消費能力、および体脂肪量の変化の調査を実施した。その結果、褐色脂肪が顕著に増量し、エネルギー消費能力が上昇して体脂肪量が減少することが判明したのである。この結果は、褐色脂肪がヒトにおいても肥満軽減のための有効なターゲットとなること証明しているという。

しかし、肥満対策として寒冷刺激を私たちの生活に日常的に取り入れることは困難といわざるを得ない。そこで次に研究チームは、毎日寒冷刺激をせずとも温度受容チャネル刺激物質を慢性的に投与することにより同様の効果を得られないかと考察。その代表的な物質であるカプシノイドを9mg/日、6週間経口摂取する前後において、褐色脂肪のエネルギー消費能力が調べられた。その結果、カプシノイドの継続的摂取により褐色脂肪のエネルギー消費能力が上昇することが判明したのである。

以上の結果から、ヒトの褐色脂肪は、寒冷やカプシノイドによって温度受容チャネルを継続的に刺激することで増量可能であり、それによりエネルギー消費が増加して体脂肪減少効果が得られることが明らかになった次第だ。

近年、肥満者は世界中で増加の一途をたどっており、効果的な予防・治療法の確立と普及が急務となっている。適切な食事管理や習慣的な運動が最も効果的であることはいうまでもないが、これらの継続的な実施は容易ではないのもまた事実だ。今回の研究で示された褐色脂肪の増量による体脂肪減少効果は、肥満と関連代謝性疾患の新たな予防法として役立つことが期待されるとしている。