東京大学(東大)は7月26日、3g/m2と世界最軽量、2μmと世界最薄であると同時に、くしゃくしゃに折り曲げても動作する超薄型有機LEDを開発したと発表した。
同成果は、同大 大学院工学系研究科の染谷隆夫教授、関谷毅准教授らによるもの。オーストリアのヨハネス・ケプラー大学のSiegfried Bauer教授、Niyazi Serdar Sariciftci教授のグループと共同で行われた。詳細は7月28日に「Nature Photonics」へ掲載された。
有機半導体は、無機半導体を中心とした既存のエレクトロニクスにはない柔らかさや大面積化といった特徴があり、光学特性にも優れている。有機EL(OLED)や有機太陽電池については、近年、活発に研究開発が進められ、すでに実用化されている。また、OLEDディスプレイは、消費電力、色再現性、応答速度においてLCDよりも優れており、次世代ディスプレイとして期待されている。OLEDディスプレイは、携帯電話やスマートフォン向けで成長してきた経緯もあり、その軽量化・薄型化へのニーズが高まっている。さらに、OLEDを利用した照明も実用化されており、その機械的な柔らかさを特徴としたユニークな形状が注目を集めている。
研究グループは今回、厚さ1.4μmの極薄のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、重量3g/m2、厚さ2μmの柔らかいLEDを作製することに成功した。同開発品は、くしゃくしゃに折り曲げても、電気的な性能が劣化せずに動作する。これは、LEDの発光素子部を折り曲げた際に、素子部に掛かる歪が極めて小さくなるように最適化されているためという。これにより、最小折り曲げ半径10μmを達成した。輝度は100cd/m2。
また、開発の決め手として、表面が粗い厚さ1μmの高分子フィルムに、ダメージを与えずにLEDを製造する低温プロセスを挙げている。具体的には、高エネルギープロセスが必要なITOの透明電極を利用せず、低温かつ低損失で形成可能な導電性高分子、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)を陽極に活用した。陰極にはフッ化リチウム(LiF)薄膜を挿入したアルミニウム電極を用いている。さらに、伸縮可能なゴムの上に、開発した柔らかい有機LEDフィルムを貼り付けることで、アコーディオンのような波型形状で伸縮自在なLEDを実現したという。
研究グループでは、これまで厚さ1μmの高分子フィルム上に有機太陽電池を均一に形成することや、全体の厚みが2μmの柔らかい有機電子回路の開発にも成功してきた。今回の研究により、有機LED(発光素子)、有機太陽電池(光センサ)、有機トランジスタ(電子回路の構成要素)といったすべての有機デバイスを、1枚の高分子フィルムに集積化することが可能となるため、従来の有機エレクトロニクスより、格段に薄型化、軽量化が実現する。これを応用することで、有機LEDを新しい光源としたユニークな薄型センサへの応用などが期待される。中でも、血中酸素濃度など生体情報の計測には、光源と光検出器を組み合わせた装置が広く用いられており、有力と見られるという。また、血中酸素濃度の他にも、光をプロ―ブとして血流量や脈波などの生体情報を計測するための装置が軽量化、薄型化され、装着してもストレスなく計測することができる"装着感のないヘルスケアデバイス"などに応用されることが期待されるとコメントしている。