岡山大学は7月25日、欧州のの研究者らが欧州地域で行った大気汚染と肺がんに関する大規模研究の成果を、英国の「Lancet Oncology」に7月9日付で発表したことを受け、同誌に同大大学院環境生命科学研究科の頼藤貴志准教授らの共同研究グループが招待コメンタリーを発表したことを明らかにした。同コメンタリーでは、研究の意義、肺がんの要因として大気汚染を加えるべきという提言、大気汚染の公衆衛生上の意義、今後の展望などを議論しているという。

大気汚染物質、特に近年、PM2.5(微小粒子状物質)などの液状・ガス状成分からなる混合粒子である「粒子状物質」による健康への影響に注目が集まるようになっている。国内では主にSPM(浮遊粒子状物質)やPM2.5(空気力学径2.5μm以下の粒子状物質)として測定されており、頼藤准教授らの研究グループも、これまでの研究から、大気汚染のガイドラインを設置し遵守した場合、大気の汚染改善により東京都だけでも年間どれ程度の余剰死亡が防げるかの推測などを行ってきたほか、大気汚染に慢性的にさらされることで、肺がんや脳梗塞など循環器系疾患が増加すること、早産が増加することなどを報告している。

今回の欧州の研究グループが行った欧州17地域で行った研究からは、大気汚染と肺がんの関連が示されたほか、WHO(世界保健機構)が掲げる基準値(PM2.5 10μg/m3。日本の基準値はそれよりも高い15μg/m3)よりも低濃度でも影響が見られることが示されており、そうした結果を受けて、頼藤准教授らは、肺がんの原因の1つとして、現在の濃度レベルでも大気汚染を加えるべきと提言することにしたという。

欧州17地域で行われた大気汚染と肺がんに関する大規模実験の概要

WHOの推測では、年間120万人が大気汚染が原因でなくなっており、肺がんによる死亡の8%が大気汚染により引き起こされているとされており、頼藤准教授らは、現在の大気汚染レベルであっても、改善を進めることで、公衆衛生の向上が期待できるようになるとコメントしており、国内での大気汚染濃度の減少と、それにつながる政策が必要であるとしている。

大気汚染の影響で東京都だけでも多くの人が健康に影響を受けているという