島津製作所は7月1日、がんの放射線治療で用いられるリニアック(放射線治療装置)と組み合わせ、呼吸などの影響により体内で一定の位置や形状を保たない肺や肝臓のような体幹部への放射線治療の場合でも、正常組織への放射線照射を避け、がん組織にピンポイント照射することを可能とする放射線治療装置用動体追跡システム「SyncTraX」を開発したことを発表した。

放射線治療は、外科手術、抗がん剤と並ぶがん治療法の3本柱の1つで、局所的に放射線を当てることでがんの増殖機能を抑制するため、治療に伴う痛みがほとんどなく、また身体の機能と形態を損なわないため、生活の質(QOL)を維持しながら治療できる方法として、選択するがん患者は年々増加傾向にある。

しかし、肺や肝臓のような体幹部の腫瘍の位置は、呼吸に合わせて大きく移動するため(呼吸性移動)、腫瘍の位置をリアルタイムで捉え、放射線をがん組織にピンポイントに照射することができるシステムの実現が求められていた。

同製品で採用「動体追跡技術」は、北海道大学大学院医学研究科の白土博樹教授と石川正純教授によって研究が進められてきたもので、呼吸性移動のある腫瘍の近傍に留置された金マーカを、2方向からのX線透視により画像化し、パターン認識技術で自動抽出・計算することでリアルタイムに3次元位置を把握し、放射線を照射するタイミング、または止めるタイミングをリニアックに指示することで、金マーカが治療計画位置から数mmの範囲にある場合にだけ放射線を照射することで、放射線照射体積を従来の1/2~1/4程度まで抑制することが可能となる。

注:白土博樹氏の『土』は正しくは土の右上に『`』が入る形となります

また、金マーカは最大3個まで同時追跡が可能であり、複数のマーカを照合することで、より正確な位置決めや追跡が可能になるという。

さらに、U字レール上を2対のX線管球・X線検出器が移動するX線透視システムを採用することで、治療角度に応じた最適位置にX線透視システムを移動させて患者の金マーカの位置を透視することが可能なほか、従来のモノクロI.I.に代わり、X線検出器として高感度で広いダイナミックレンジを実現するカラーI.I.を採用したことで、よりX線透過量の広範囲な透視が可能となり、ハレーションや輝度不足の少ない透視画像を得ることができるため、高いマーカの追跡性能を得ることが可能になっているとする。

なお、同製品はX線透視システム(X線管、X線検出器)、X線高電圧装置、同期制御装置、動体追跡処理装置により構成されており、価格は3億円(税別)。同社では、2012 年度の診療報酬改定で加算の対象になったこともあり、動体追跡システムに対する関心は高まりつつあるとの見方をしており、発売後1年間で国内5台の販売を見込むとしている。

SyncTraXのイメージ図