東大など、腎臓がんによるゲノム異常・分子異常の全体図の解明に成功

東京大学(東大)は6月25日、大規模の統合的な淡明細胞型腎細胞がんのゲノム解析を行い、淡明細胞型腎細胞がんで生じているゲノム異常・分子異常の全体図の解明に成功したと発表した。

同成果は京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司 教授、東京大学大学院医学系研究科 泌尿器外科の本間之夫 教授、同 病理学の深山正久 教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟 教授、名古屋大学大学院理学研究科の嘉村巧 教授、東京大学先端科学技術研究センターの油谷浩幸 教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の菅野純夫 教授、理化学研究所ゲノム医科学研究センターの角田達彦チームリーダーらによるもの。同成果の詳細は米国科学雑誌「Nature Genetics」電子版に掲載された。

淡明細胞型腎細胞がんは腎臓に発生するがんのうちおよそ80%を占める代表的な腎臓がんで、近年は健康診断で偶然に発見されることも増えているものの、進行するまで自覚症状が出にくいため、転移をきたしてから診断されることも少なくない。

治療法としては、手術による切除以外には完全な治癒を期待できるものはなく、転移を生じていた場合、インターフェロンなどを用いた免疫療法に加え、近年では分子標的薬による治療が行われているものの、がんが消失することは稀である。

淡明細胞型腎細胞がんの治療成績向上のためには、遺伝子変異をはじめとして、がん細胞で生じているゲノム異常・分子異常を理解し、どのようなゲノム異常・分子異常ががんの発生や進行に関わっているかを検討する必要があった。

そこで今回、研究グループは100例を超す症例を対象とした全ゲノムシーケンス解析を含む遺伝子解析技術による淡明細胞型腎細胞がんの統合的分子解析を行なうことで、遺伝子異常の全体図を明らかにした。

具体的には、14例について30億塩基対からなるゲノム全体の塩基配列を、106例についてゲノムのうちタンパク質をコードする領域(エクソン)の全塩基配列を解読することで、淡明細胞型腎細胞がんで生じている遺伝子変異を同定し、淡明細胞型腎細胞がんでは、1例あたり平均、ゲノム全体では5100個、エクソン領域では約50個の遺伝子変異を検出したという。

106例の全エクソン解析において同定され、有意と考えられた遺伝子変異。1例あたり平均50個の変異が観察されるが、その多くは、1例でのみ観察される異常であり、意義は不明だという。VHL、PBRM1、BAP1、SETD2を除く遺伝子変異の多くは、今回、新規に腎細胞がんで同定された遺伝子変異で、新規に同定されたTCEB1変異はVHL 遺伝子と排他的に観察される

これまでの研究から、淡明細胞型腎細胞がんでは、VHL という遺伝子の異常が高頻度に存在することが知られているほか、VHL遺伝子がコードするVHLタンパクはいくつかのタンパク質(Elongin BやElongin Cなど)と複合体を形成し、HIF(低酸素誘導因子)タンパクの分解を促し、正常細胞ではHIFのタンパク量が調整されていることが知られており、VHL遺伝子に異常が生じるとHIFが分解されなくなり、蓄積することが発がんに関わると考えられてきた。

TCEB1(Elongin C)の変異。(左)VHL分子との結合に重要な特定のアミノ酸に集中して生じる。(中央)VHLはElongin BやElongin Cと複合体を形成し、ユビキチン化を介したHIFの分解を促す。(右)TCEB1(Elongin C)に変異が生じると、VHLとの複合体が形成されず、HIFが分解されず、蓄積する

今回の研究でも、92%の症例でVHL遺伝子に異常が検出されたほか、VHL異常が認められない症例においても、その症例の半数近くで遺伝子「TCEB1」に変異が生じていることを明らかにした。

TCEB1遺伝子はElongin Cをコードしており、VHLとともにHIFの分解に関わっていることが知られているが、今回の研究では、TCEB1(Elongin C)の変異は特定の2カ所のアミノ酸に集中していることを確認し、このアミノ酸に変異が生じて他のアミノ酸に置換されることで、Elongin CとVHLの結合が阻害され、これによりHIFが分解されず蓄積することを明らかにしたほか、他のがん腫において変異が生じていることが知られていたDNAの脱メチル化を調節する働きを持つTET2遺伝子や、酸化ストレス反応に関わるKEAP1/NRF2/CUL3遺伝子の変異も胃がんにおける変異として初めて同定したという。

また、PBRM1、BAP1、SETD2など、クロマチン修飾に関わる遺伝子変異を高頻度に検出し、中でもBAP1の変異例は死亡のリスクが高いこと、SETD2の変異例は転移のリスクが高いことも確認したとしている。

さらに今回の研究では、遺伝子変異の同定だけではなく、染色体数の異常(コピー数異常)、遺伝子の機能の量的な異常(遺伝子発現)およびエピジェネティックな異常(DNAのメチル化)についても100例以上の症例を用いて網羅的な解析を行っており、これらを含めた各種の解析から、遺伝子変異、コピー数異常、遺伝子発現の変化、DNA のメチル化の状態には、それぞれ密接な関連があることが示されたほか、これらのゲノム異常のプロファイルから、淡明細胞型腎細胞がんが複数のサブグループに分類できることが明らかになったと研究グループでは説明しており、いくつかのゲノム異常は生命予後や再発などの臨床病型と相関をしており、特にメチル状態による分類は予後予測に有用である可能性があるとしている。

なお、研究グループでは、これらの遺伝子変異が明らかとなったことで、今後の研究から、淡明細胞型腎細胞がんの新たな分類方法や治療法の開発のほか、ゲノム異常に基づいた治療法や薬剤の選択といったオーダーメイド医療の実現が近づくことが期待されるとコメントしている。

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