岡山大学は6月6日、がんの鉄分が下がれば血管新生が起こされる機構に着目し、がんの鉄分をコントロールしながら血管新生を阻害する新しい治療法を開発したと発表した。

成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科 消化器外科学の大原利章非常勤講師、同大学病院卒後臨床研修センターの野間和広助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月1日付けで国際対がん連合(UICC)発行のがん研究の専門誌「International Journal of Cancer」2013年6月号に掲載された。

新規抗がん剤は世界中で次々と開発されているが、それでもがんを根治できるようなものの開発には至っていない。そこで研究チームが着目したのが、がんは鉄分が減ると増殖速度が抑制され、がんとしては追い込まれた状態になるという仕組みだ。

今回の研究では、追い込まれたがんが、その状況を打開するために血管を新たに引き込もうとすることが判明(画像)。がんの事実上無限といわれる増殖能力を支えているのが血管新生能力の強力さだが、現在、その血管新生を阻害しようという「兵糧攻め」コンセプトが新たながん治療研究の潮流となっている。

よって、今回の研究で判明した鉄量を人為的にコントロール(除鉄)することでがんを追い込まれた状態に誘導し、血管を新生して鉄分を確保しようとするところを血管新生阻害薬でそれを防ぐという2重の兵糧攻めともいうべき方法で治療するという従来にない新しいコンセプトの治療法が開発されたのである。

除鉄を応用した治療イメージ

これまで発がんの原因の1つが鉄であることは知られていたが、鉄をコントロールしてがんを追い込む発想は今までになかったという。今回の治療法はがんの防御機構を逆手にとった治療法であり、従来の抗がん剤では効果がなかったがんに対しても効果を発揮する可能性があるとしている。

また、既存の血管新生阻害作用を有する抗がん剤(分子標的薬)の効果を高めるために、今後も次々と登場してくる予定の血管新生阻害作用を有する抗がん剤に対してもその効果を高めることが期待されるとした。さらに、今回の研究が進めば、がんを追い込みながら生活・治療を行うという、パラダイムシフト的な新しいがん患者のライフスタイルに結びつく可能性まであるとしている。