日本原子力研究開発機構(JAEA)は5月17日、銅やアルミニウムなど身近な金属への音波注入によって電子の持つ磁気の流れ「スピン流」を生みだす新しい原理を発見したと発表した。

成果は、日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター 松尾衛研究員らによるもの。詳細は米国物理学会誌「Physical Review B」速報版に近日中に掲載される予定。

電子は「電気」と「磁気」の2つの性質を持つが、「磁気」の起源は電子の自転運動であることがわかっており、近年の技術発展により、磁気の流れである「スピン流」を利用することが可能になり、現在までに様々な省電力ナノデバイスの開発が進められている。

従来、スピン流を作り出すには、磁石を使う、もしくはプラチナなどの貴金属を使う、という2つの手法が知られていたが、今回、研究グループでは、振動する金属中における磁気の流れを精密に表す基礎方程式を導き、音波を用いた新しいスピン流生成原理を発見した。

具体的には、図(a)のように圧電素子を用いて音波を金属に注入すると、表面音波と呼ばれる音波がx方向に伝播し、金属結晶が局所的に回転するように変形し、この回転変形によって金属内部に特殊な磁場が誘起され、表面音波の強度が最大となる表面付近で、この磁場の強度も最大となるというもの。

電子スピンは磁場の方向に揃い、エネルギーが最小となるように、磁場の強い場所へ移動する性質が知られているため、表面音波によって誘起された磁場が最大となる表面付近に向かってスピン流が流れる。この研究で導かれた基礎方程式を用いて、表面音波によって生成されるスピン流の大きさを計算した結果、プラチナのような貴金属よりも、アルミニウムや銅のようなありふれた金属を用いた方が大きくなることが明らかになった。この結果、銅やアルミニウムのような身近で安価に手に入る金属を使うという第3の手法が見出されたとしている。

音波によるスピン流生成。(a)圧電素子によって音波を発生させると、アクリル樹脂製くさびを通じてアルミニウムの表面付近に音波(表面音波)が注入される。表面音波は、x方向に伝播し、y方向に減衰する。(b)表面音波によって金属内部に特殊な磁場が発生し(白矢印)、磁場の強度は表面付近で最大になる。電子スピンはこの磁場に揃い、エネルギーが最小となるように磁場の強い表面付近へ移動する(赤矢印)

この手法により、磁気的な影響を避けたいデバイス中でスピン流を活用でき、プラチナなど高価な貴金属を使うことなく、スピン流を生み出すことが可能となることから、研究グループでは、将来的にはレアメタルフリーな省電力磁気デバイス開発につながることが期待されるとコメントしている。