放射線医学総合研究所(放医研:NIRS)と日立アロカメディカルは3月21日、福島など空間線量の高い地域向けの「ホットスポット探査システム」の開発に成功したと共同で発表した。

成果は、放医研の白川芳幸研究基盤技術部長、日立アロカ 計測システム技術部らの研究グループによるもの。詳細な研究内容は、3月26日~28日に開催された日本原子力学会2013年春の年会で報告された。

東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された「セシウム137(Cs-137)」などの放射性物質は、東日本各地にホットスポットと呼ばれる空間線量が高い場所を作り出してしまった。中には非常に高い数値が出ている場所もあるが、ただちに健康に害がおよぶ数値ではないとされているところが多いとはいえ、周辺住民にとっては決して心休まるものではない。よって、現在は、周辺住民の健康影響の不安を取り除く意味も含めて、これらホットスポットに対し、各地で除染作業が進められているところである。

しかし、除染作業は決して短時間で済むものではない。効率よく作業を進めるためには、各地域における放射性物質の分布を知ることが必要だ。現在、放射性物質の分布の測定は、航空機を用いて空から2次元的に、自動車を用いた走行サーベイによって1次元的に、また固定型のモニタリングポスト(原子力発電所や、環境監視センターなどで空間線量率を測定するのに用いられる放射線検出器)によってポイントの値として求められている(これらのデータは文部科学省のWebサイトなどに掲載されている)。だが、これらの作業は効率が悪く、多くの時間がかかっていた。

測定を素早く行うためには、局所的に高線量率のホットスポットの有無およびその強さを迅速に知る必要がある。それには、空間線量率を測定する「ヨウ化ナトリウムシンチレーションサーベイメータ」、表面汚染を測定する「ガイガーミュラーサーベイメータ」や「プラスチックシンチレーションサーベイメータ」などの各種サーベイメータが使われているが、このような装置は実際に人がその場所に行って、その場所を「点」として測定するものであり、この装置のみでは広範囲な場所のホットスポット探査には向いていない。どうしても長時間がかかってしまうという問題があった。

そこで、それらの代替技術として注目を浴びるようになってきたのがガンマ線カメラだ。すでにいくつかの製品が市販されているが、これらの製品も決して短所がないわけではない。ガンマ線カメラは特定の方向を見ることには優れているが、周辺全体でホットスポットを探す場合は、例えば視野角60度の場合は装置を中心にして少なくとも6回は測定する必要がある。測定時間を1方向で5-10分とすると、360度全方位を測定するには30分から1時間もかかってしまうというわけだ(画像1)。

そこで研究グループが今回、ホットスポットの可能性が高い方向を短時間で示す装置を開発した。方向がわかればガンマ線カメラで1方向の1回の画像で確かにホットスポットであるかどうかを確認することが可能だ。また、その方向にサーベイメータを持ちながら移動することで、容易に場所(あるいは境界)を特定することもできる。開発目標を半径30mの範囲を1分で探査できることとし、放医研と日立アロカで協力して開発が進められた。

画像1。従来技術との比較

今回、試作した探査システムはモニタリングポスト用の検出器と同じ大きさの「ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器」で、画像2のように120度ずつ3分割して用いる仕組みだ。ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器は、その名にあるヨウ化ナトリウムの透明な結晶が使われている。この結晶にガンマ線が入ると微弱な青色の光であるシンチレーション光が放出されるので、それでガンマ線を検出するというわけだ。ヨウ化ナトリウムシンチレーション検出器は、結晶に増幅器を備え付けて確実に光を検出できるようにしたガンマ線検出器なのである。なお今回の検出器に使われている結晶のサイズは、直径75mm×長さ75mmである。

ホットスポット探査システムでは、そうした検出器を3台セットして120度ずつ3分割して分担する仕組みだ。画像2の例のようにホットスポットに最も近い位置に青色の検出器があるとすると、横軸が放射線のエネルギー、縦軸が計数を表すグラフの「スペクトル」で見た時、画像3のように青が大きくなる。よって、例えば600から700キロエレクトロンボルト(keV)ぐらいにピークがあるとすると、662keVのエネルギーのガンマ線を出すを持つCs-137が当てはまることから、そこにCs-137があることがわかるというわけだ。また、そのピークの大きさから放射性物質の量も計算できるのである。

画像2。検出器の内部。赤、青、緑の3色の部分は、検出器を120度ずつ3分割して設置されていることを表す

画像3。スペクトルの例。662keVにピークがあることから、Cs-137であることがわかる。さらに、赤、青、緑の3つの検出器におけるスペクトルの高さの比により、放射線がどの方向から来ているかがわかるのだ

話を元に戻すと、青色の検出器に対し、背面に隠れている赤色や緑色の検出器のスペクトルは当然小さくなる。0~360度の方向で3個の検出器のスペクトルの相互の関係をあらかじめ指標化しておき、実際の測定の際には、得られた3個のスペクトルから指標を自動計算し、コンピュータに記録された指標と付き合わすことによって飛来方法を角度で示すことができるというわけだ。1台を用いた場合は方向だけがわかるが、画像4のように2台を用いれば三角測量を行え、場所を特定することもできるのである。

画像4。探査のイメージ。2台用いれば、三角測量で場所を測定できる

実証試験として、放医研内の研修棟屋上管理区域でCs-137の密封線源(400MBq)をセットし、ホットスポット探査システムはそこから30m離して検出が試みられた。その結果、検出器の場所での空間線量率はバックグランド(放医研で通常0.06μSv/h)に対して0.05μSv/h増加するのみだったが、この条件で1分間の測定で±5度の精度で方向を特定することに成功したとする。

また、敷地内の芝生でCs-137の屋外使用できる表示付認証機器密封線源(10MBq)2個をホットスポット探査システムから8m離してセットしての試験も行われた。この場合も、空間線量率はバックグランドに対して0.03μSv/h増加するのみだが、この条件でも1分間の測定で±5度の精度で方向を特定することに成功した形だ。以上のことから検出器の位置でホットスポットからのガンマ線がバックグランドの2倍程度あれば方向を特定できることがわかったのである。

ホットスポット探査システムの外見は、画像5と6の通りだ(探査システムの正面と後面を写したもの)。また画像7は、方向とエネルギーを示す画面の例。赤い丸は86度の方向にホットスポットがあることを示している。黒い円の半径は、大きくなるほどガンマ線のエネルギーが大きいことを表する(最小の円は200keV、200keV刻みで最大の円は1000keV)。赤丸の位置は600keVと800keVの間にあることから、Cs-137の662keVのガンマ線だということがわかるというわけだ。

画像5。探査システムの正面

画像6。探査システムの後面

画像7。ホットスポットの方向表示例

ホットスポット探査システムは現在、試作機が2台完成している。2013年度以降、福島の除染対象地域など現場での実証テストを行っていく予定としている。