東京医科歯科大学(TMDU)と科学技術振興機構(JST)は2月22日、金沢大学の協力を得て、皮膚アレルギーにおいてアレルギーの「火付け役」を「火消し役」に変身させることで炎症を抑制して、アレルギーを終焉に向かわせる新たな仕組みを発見したと共同で発表した。
成果は、TMDU大学院 医歯学総合研究科 免疫アレルギー学分野の烏山一 教授、金沢大 がん進展制御研究所の向田直史 教授らの研究グループによるもの。研究はJSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われ、詳細な内容は2月22日付けで国際科学誌「Immunity」オンライン版に掲載された。
日本でもなんらかのアレルギー反応を示す人は、人口の3割近くに達するなど、国民的な病気として治療の必要性が求められているが、アトピー性皮膚炎やぜんそくに代表される重篤なアレルギー疾患に関しては、発症・悪化のメカニズムなどを含め、根本的治療に向けた病態解明はまだ十分に進んでいない。
これまで研究グループでは、アトピー性皮膚炎の病態解明と新たな治療標的の探索を目的として、アトピー性皮膚炎に類似した慢性皮膚アレルギー炎症のモデルマウスを開発し、抗体の1種である「IgE」と白血球の1種である「好塩基球」がアレルギーの発症に深く関わっていることを報告してきたが、同モデルマウスでは、好塩基球のほかにさまざまな種類の白血球が皮膚の炎症部位に集まっていることが確認されているものの、それぞれがアレルギー性炎症に対してどのような役割を果たしているのかについては、よくわかっていなかったという。
今回の研究では、慢性皮膚アレルギー炎症のモデルマウスで炎症部位に集まっている白血球の調査を実施。その結果、その内の半数近くが「マクロファージ」であることが見出されたほか、これらが血中を循環している炎症を引き起こす細胞とされ、これまで炎症の誘導・悪化に関与すると考えられてきた「炎症性単球」に由来し、血中から皮膚に浸み出した単球が、好塩基球が産生するサイトカインの1つである「インターロイキン4(IL-4)」の作用を受けてマクロファージへと分化することを発見した。
このマクロファージの特徴を調べたところ、アレルギー炎症の誘導・悪化に寄与するとの報告がある「2型マクロファージ」と呼ばれるものであることが確認されたため、これらの細胞がアレルギー炎症の誘導に深く関わっていると研究グループでは予想し、炎症性単球が皮膚内に浸み出せないように遺伝子を操作したCCR2欠損マウスを作製したところ、炎症は軽快せず、むしろ悪化・長期化してしまうことが確認されたという。
そこで、正常マウス由来の炎症性単球を同CCR2欠損マウスに注射したところ、炎症性単球が皮膚アレルギー炎症部位に浸み出して2型マクロファージへと成熟することで、ひどかった炎症を抑えることを発見。炎症性単球がアレルギー炎症を抑制するという、炎症の火付け役が火消し役に変化することが判明したという。
さらなる解析を行ったところ、IL-4が皮膚に浸み出してきた炎症性単球に作用して、2型マクロファージへと変化させることを発見し、これにより炎症性単球由来の2型マクロファージがアレルギーを抑制することが示されたこととなった。これまで、2型マクロファージの生い立ちに関しては、常在性単球からの生成経路と組織常在マクロファージからの生成経路の2つが知られていたが、今回の研究から炎症性単球からの生成経路が存在することが判明したこととなる。
画像3。マクロファージ生成の経路を表した模式図。これまで、炎症性単球から1型マクロファージへの分化経路はよく知られていたが、2型マクロファージの生成経路に関しては不明な点が多く残されていた。すでに常在性単球からの分化経路と常在性マクロファージからの生成経路が存在することは報告されていたものの、今回の研究から炎症性単球から2型マクロファージが生成されるという新たな経路が発見されたこととなる |
なお、研究グループでは今後、今回の成果である「アレルギー性炎症を悪化させる細胞(炎症性単球)」を「アレルギー性炎症を抑える細胞(2型マクロファージ)」に変換するメカニズムと2型マクロファージによる炎症抑制に関わる分子群の探索を行っていくことで、アレルギーに対する新たな治療標的の発見、ならびに新たなタイプの治療法の開発につながることが期待されるとコメントしている。