海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、新たに開発した海中3Dレーザースキャナを新型無人探査機「おとひめ」に搭載し、光学カメラでは視認できない距離(海底からの高さ)から広範囲の海底面3Dデータを取得することに成功したと発表した。

同システムは、JAMSTEC 海洋工学センター 海洋技術開発部の石橋正二郎技術研究主任らの研究グループが開発したもの。

海底調査で使用される観測ツールとしては、ソナーシステムや光学カメラがよく用いられているが、ソナーでは高精度な海底地形データの取得には不向きなほか、光学カメラは、光の届く範囲であれば詳細な海底画像を取得できるものの、海上から光が届く範囲に限られており、中距離(中高度)から幅広い範囲で詳細な海底観測を実現できる技術の開発が求められていた。

JAMSTECでは、これまでの研究から、レーザー光が約100m以深の海中において減衰が大幅に軽減されることを確認してきたほか、その利用に最適となるレーザー光波長の選定に向けた定量的な試験を実施してきた。

今回の研究では、海中におけるレーザー光の伝播特性を考慮したシステムアルゴリズムの構築およびレーザー光の発光・受光方式を含むスキャニングシステムを検討し、それらの開発成果を融合することで、数mから約20mでの海中レーザースキャニングを実現するシステム「海中3Dレーザースキャナ」を構築することに成功したという。

画像1。今回開発された海中3Dレーザースキャナの仕様

具体的な性能としては、約10m離れた目標に対して、横36m(指向制御角度120deg)×縦14m(指向制御角度30deg)の範囲でレーザー光を照射し、反射光の戻り時間および強度を測定することで、照射範囲の海底面3Dデータを数cmオーダーの分解能で取得することが可能だという(画像更新頻度は約1fps)。

実際の試験としては、おとひめに同スキャナを取り付け、水深約100mの海域を、高度(海底からの高さ)5~7mで航行しながら海底面のレーザースキャニングを行い、約150mの海底面3Dデータを取得したという。ちなみにレーザースキャニングでは、目標の全視野にわたる3次元位置情報を取得できるため、その3D画像を解析することで、対象とする物体の体積なども求めることが可能だというほか、取得した光強度画像や距離画像を用いて、探査機に搭載したマニピュレータの遠隔操作を支援するシステムの有効性の確認も行われたという。

画像2。おとひめに搭載された海中3Dレーザースキャナ

画像3。レーザースキャニングによる海底面の3D画像

研究グループでは、同スキャナのレーザー光は、通常のカメラ光源よりも遠くまで届くため、例えばカメラ画像には映らない遠方の目標を、幾何学情報(レーザースキャニングによる3次元位置情報の可視化画像)としてほぼリアルタイムにオペレータへ提供することができることから、遠隔操作時の周辺環境の把握にも有効であることが示されたと説明する。

画像4。レーザースキャニング画像を用いたマニピュレータ操作支援システム

なお、研究グループでは今回の試験結果を受けて、次の段階として、混濁物が少なく同システムの本来の性能が発揮されるさらなる深海において、その性能と信頼性を評価していく計画としているほか、併せてスキャニング画像の高解像度化、レーザー光の遠達性向上およびシステムの小型軽量化についても取り組んでいく予定としている。また、これまでの知見を基礎とした新しいシステム開発として、新たに探査機と海中ステーション間などの海中レーザー通信などを実現したハイブリッドな深海用海中レーザーシステムの開発などを目指したいとコメントしている。