産業革新機構を中心とした9社から1500億円を調達

ルネサス エレクトロニクスは12月10日、会見を開き、同日付で発表した産業革新機構を中心とした9社を割当先とする第三者割当増資を決定した背景などの説明を行った。

今回の第三者割当増資は、産業革新機構のほか、トヨタ自動車、日産自動車、ケーヒン、デンソー、キヤノン、ニコン、パナソニック、安川電機の9社を対象としたもので、1株あたり120円で普通株式12億5000万株を新規に発行当該企業に割り当てを行うもので、これにより総額1500億円の資金を調達することとなる。

9社の割り当て株式数は以下の通り。

企業名 株式数
産業革新機構 1,152,917,000
トヨタ自動車 41,666,600
日産自動車 25,000,000
ケーヒン 8,333,300
デンソー 8,333,300
キヤノン 4,166,600
ニコン 4,166,600
パナソニック 4,166,600
安川電機 1,250,000

リーマンショックに端を発した金融危機、東日本大震災、タイの洪水などに加え、欧州の財政問題や中国経済の減速など、世界の経済環境が大きく変化する中、同社は2013年3月期通期業績において、事業・生産構造対策や人的合理化施策の実施に伴う1500億円の連結当期純損失を計上する見込みとしていた。また、2013年3月期の上期(第2四半期連結累計期間)には連結純資産額が1068億2000万円(2012年3月期の連結純資産2265億円の47%)となるなど、財務基盤の急速な悪化が懸念される状況となっていた。

会見するルネサス エレクトロニクスの代表取締役社長の赤尾泰氏(右)と産業革新機構 代表取締役社長(CEO)の能見公一氏(左)

ルネサスの2013年3月期通期業績予測。今回、売り上げと半導体売上高が下方修正された

対抗施策として、大量購買による資材費用の低減や技術資産の統合、研究開発費の効率化、販売チャネルの絞り込み、ITシステムなどの統合による低減などの取り組みのほか、工場の売却などの生産拠点の再編、そして早期退職の実施などを行ってきた。さらに、主要株主3社ならびに取引銀行からの約970億円の資金調達ならびに主要取引銀行をアレンジャーとした1611億円のシンジケートローン契約の締結などを進めてきたが、財務基盤の観点では、2012年9月30日時点で、グループの現金および現金同等物の残高が、月商の約1月分となる696億円にまで落ち込んでおり、同社としては今後、構造対策効果の発現や業績回復に伴う営業キャッシュフローの積み上げなどで改善が進むことを見込むも、その過程において急激な市場構造の変化が生じた場合に、それに対応できる柔軟な事業運営を実現するためには、早急な財務基盤の強化が必要な状況にあること、ならびに成長投資の観点として、財務基盤の安定を最優先し、成長投資の抑制を継続することは、将来的なマーケットシェアの低下などの競争力低下リスクが大きくなるとの判断から、従来の枠組みにとらわれない迅速な経営判断による抜本的な施策の推進が急務であると判断し、そのために必要十分な資金・資本増強を行うこととしたとする。

第三者割当増資の概要と、それに伴う主要株主の変更。産業革新機構が同社の約7割の株を保有することとなり、従来の大株主3社(NEC、日立製作所、三菱電機)は合計で20%強程度となる

ルネサス エレクトロニクス代表取締役社長の赤尾泰氏は、こうした状況を踏まえ、「この先、勝ち抜くための万全の体制を構築するためには構造改革を引き続き推進していく必要があると判断し、産業革新機構ならびに取引先8社を相手にする第三者割当増資を決定した」と説明。増資により、将来の成長に向けた財務体質ならびに事業基盤の強化、そして成長戦略に充てていくとする。

今回、産業革新機構ら9社からの提案のほか、主要金融機関や親会社からの追加借り入れ、公募増資、そしてライツ・オファリング(既存株主への新株予約権の無償割り当て)なども選択肢としてあったが、追加借り入れについては、すでに最大限の支援を受けているため現実的ではなく、公募増資についても株価の下落が続き、株式市場の環境が不透明ということから無理と判断。そしてライツ・オファリングについては、国内でのコミットメント型の事例が存在せず、手続きの時間がかかり、かつ資金調達が不確実との判断に至り、最終的に第三者割当増資を実施することに決定されたという。この第三者割当増資も、国内外の複数の案件が存在しており、その中から産業革新機構の案が、多額の資金を一括して得られるほか、取引企業が含まれることによる事業シナジーの創出効果が期待できることなどが重視され、受け入れられた形となった。

今回の株価120円は、2012年12月10日時点の東京証券取引所の同社株価が300円超程度ということを考えると、かなり低めに設定されているものと思われるが、金額の算出について産業革新機構 代表取締役社長(CEO)の能見公一氏は、「諸々の手続きを踏んで決定されたもので、独立した第3者の算定機関が提出した株式算定などをベースにルネサスと協議をし決定した」と説明する。

こうして得られる1500億円の資金についてルネサスでは「コアコンピタンスの強化(研究開発投資に400億円、設備投資に200億円)」、「ソリューション提案力の強化(自動車向けに400億円、産業分野向けに400億円)」、「市場変化に対する耐性の強化(経営基盤の再構築として100億円)」の3つの柱に振り分けることで「マイコン、アナログ&パワー半導体を合わせ、スマート社会におけるプラットフォームリーダーを目指す」(赤尾氏)とする。

デバイス単体からプラットフォームとして提供していく、という流れは多くの半導体ベンダが志向している方向性であり、同社だけが目指しているというわけではない

プラットフォームリーダーとは、従来の個別の半導体デバイス単体を顧客に売るのではなく、それらを組み合わせたキットソリューション、そしてその上で動作するソフトウェアなどまで含めたプラットフォームへのビジネスの軸足を移し、そこでの売り上げ拡大を図り、市場を握ろうともので、すでにマイコンを軸にそうした取り組みを進めているという。

競争力強化に向けた3つの分野に1500億円を投入

こうした戦略の基盤となるのが同社の主軸となるマイコンビジネスに向けた将来戦略だ。家電などではマイコンが用いられてきたが、IT機器はMPUやSoCが演算処理の中心部に置かれてきた。今後、実現されるであろうスマート社会においては、すべての機器がネットワークに接続されることとなり、従来の家電の制御機能と、IT機器の通信機能が融合することが必須となることから、こうした対応が可能な製品の開発と設備投資を進めていく。40nmプロセス採用フラッシュマイコンの低コスト化や28nmプロセス対応品の開発が主となるが、TSMCとの提携強化に伴うIT機器向けIPとの統合によるあらゆる周辺機能に対応できるIP群を提供できるようになり、それがシェア拡大につながるとの自信を覗かせる。

同社のコアコンピタンスとなるマイコンの強化を中心に、周辺のアナログ半導体とパワー半導体を組み合わせ、そこにソフトウェアなどを組んでいくことでプラットフォーム化を進めていく

また、マイコンの周辺に配置されることとなるアナログ半導体およびパワー半導体については、主要事業分野である自動車を重視し、同分野のニーズであるセンサの増大に対応できる車載機器向けミクスドシグナル製品としての90nmプロセスへの対応と300mmウェハ化への投資加速を実施。さらにパワー半導体としては、SiCやGaNデバイスの対応を進め、高効率製品の拡充による競争力強化、ならびにモジュール技術の強化による従来の単品販売しかできなかった分野から、新たな市場機会の創出を目指すとする。

こうして強化された製品群を活用し、それぞれ重視する産業分野向けソリューションの強化を図るとともに、顧客への提案力そのものの強化も進めるとのことで、新興国向けにはマーケティング力の強化としての、独立系デザインハウスとの協業やM&A、eコマースシステムの強化などの拡充を図っていくとする。

アナログ半導体やパワー半導体はエネルギー効率を向上させるためには避けて通れない分野であり、デジタル部分を司るマイコンとの組み合わせることで、より高効率なソリューションを展開できるようにしようというのが今後の目指す方向性となる

さらに、生産体制として、東日本大震災の経験から、供給途絶ゼロを目指したBCPの強化を図るとのことで、90nmならびに40nmプロセス品を含め、複数の拠点(ファウンドリ含む)で生産を可能とするための研究開発を進め、安定した製品供給体制の構築を図っていくとした。

なお、こうした取り組みで売り上げならびに利益の向上を目指すとするが、会見において赤尾氏は、「これまでも合理化を進めてきたが、なかなか事業環境は好転せず、かつ国際情勢などの不安定要素が根強く、人員整理を含めた合理化は必要だと思っている。産業革新機構からも固定費の削減についても提案されており、今後、協議を進めていく」とコメントするも、具体的には現時点で、追加的なものは決まっていないと追加の人員削減策などに関する言及は避けた。ただし、産業革新機構側の能見氏は「グローバルでの競争であり、海外企業とも戦える筋肉質な構造を構築していく必要がある」との認識を示し、事業に悪影響を与えないように慎重に検討していくとしたほか、「全面的に現在の経営陣をサポートしたいと思っているが、実際に革新機構が投資をした後の成長戦略は明確なリーダーシップのもとに遂行される必要があると考えており、そういった意味では赤尾社長とも相談の上、新体制をどう組んでいくかについて、具体的に検討していきたい」と、正式決定ではないが、投資を行う初期段階で産業革新機構の影響力が比較的出せるような役員体制にしたいとの希望を示し、それを踏まえた新たな中長期的な戦略構築を進めていくとした。