産業技術総合研究所(産総研)は12月3日、3CCD方式によるフルHD規格(1920×1080画素)の赤外線カラー暗視撮影技術を開発したと発表した。

同成果は、同所 ナノシステム研究部門 ナノ光電子応用研究グループ 永宗靖主任研究員、同部門 太田敏隆主任研究員らによるもの。詳細は、12月5日~7日開催のSEMICON Japan 2012にて、展示およびデモンストレーションで発表される。

暗闇の中での撮影には赤外線暗視カメラが広く使われているが、従来はモノクロの映像しか撮影できなかった。セキュリティ、車載カメラ、夜間動物観察などの、暗視撮影を必要とする分野では、より詳細な映像情報を得るためにカメラのHD化が進められているが、依然としてモノクロ映像が利用されている。一方で、赤外線だけを利用して、可視光で見た映像に近いカラー画像が撮影できれば、これまでとは質的に異なる情報が得られ、前述の分野などでの展開が期待される。

産総研では、高感度光検出器・撮影技術の開発を行ってきており、その中の1つとして、赤外線撮影から物体の色を再現できる画像処理技術の開発を進めており、これまでに、モノクロでしか表示できなかった赤外線画像を可視光下で見た色に近いカラー画像として撮影できる赤外線カラー暗視カメラの原理を実証してきた。今回の研究では、同技術をさらに高度化して、高精細なデジタル放送にも使える、高解像度の赤外線カラー動画が撮影できる装置の開発を行ったという。

同技術は、暗闇にある被写体に赤外線を照射し、被写体から反射してきた赤外線を独自の高感度赤外線撮影技術により検出し、弱いながらも存在する物体の可視光領域における反射特性と赤外線領域における反射特性の相関関係に基づいて、表色処理を行うことによって可視光下での被写体の色と同一かそれに近い色によるカラー動画を得るもの。筐体は、既存の放送用HDカラーカメラをベースとして、サイズや重さを増大させないで、内部に赤外線カラー暗視用の装置も組み込んでいる。このカメラは、可視光照明下では通常のHDカラーカメラとして動作し、暗闇の中ではカメラ上部に取り付けられた赤外線投光器で赤外線を投射して赤外線映像を撮影し、カメラ内部の画像処理系によりカラー化する。より高精細で、しかも高速に画像処理を行うために3CCD方式の撮影方法を開発し、これまでの赤外線カラー暗視画像の撮影速度10fpsから30fpsと、標準的なテレビカメラと同じ撮影速度に高速化したほか、撮像素子をVGAクラス(640×480画素)からフルHDに対応させた。

図1は、今回開発した赤外線HDカラー暗視カメラを用いて、暗闇の中で赤外線照明だけを用いて撮影した映像。

図1 今回開発した赤外線カラー暗視カメラにより撮影された暗闇中の被写体の撮像例

今回開発された方式でも、前回開発されたカメラと同様に可視光照明下の物体の色をよく再現できていることが分かる。

図2 開発した赤外線HDカラー暗視カメラ。上部の黒いブロックが赤外線投光器

また、図3(a)は、前回開発したカメラにより撮影できる範囲を示したもので、今回開発のカメラにより、より広範囲の映像が得られることが分かる。さらに、図3(b)は図3(a)の一部を拡大した画像で、図3(c)は図3(b)と同じ画像を前回開発したカメラの解像度に変換して示した画像だ。このように、新たに開発した赤外線カラー暗視カメラにより、より高精細な映像を撮影できるようになったことが確認できる。

図3 (a)前回開発したカメラによる撮影範囲を示した画像。(b)その一部を拡大したもの。(c)前回開発したカメラの解像度に変換して示したもの

これまでの産総研の赤外線カラー暗視カメラでは10fpsで撮影されているため、速く動く被写体に対しては、像の流れが起きてしまうことがあった。これに対し、今回開発されたカメラでは標準的なテレビ放送と同様の30fpsで撮影できる他、カラー化したことによって情報量が多くなり、動きの激しい対象物もより自然な映像で撮影できるようになったという。例えば、動物の行動を昼間から夜間にわたってHDカラー映像として撮影・記録することも可能となる。また、この技術は色判別も可能な高精細防犯カメラ、視認性を高めた車載カメラ、医療・介護用の保安カメラなどへの幅広い応用も期待される。

なお、今後は同技術を民間企業へ技術移転し、撮影装置を高性能化・高耐久性化させた後に実用化させる予定としている。また、小型化をさらに進めて、民間企業と共同で放送用カメラ以外への応用展開を図りたいとのことである。