名古屋メシの一つとして全国的に有名な喫茶店のモーニングサービス(以下、モーニング)。大多数のモーニングは「トーストに卵、ミニサラダ」というのがスタンダード。名古屋の日常に溶け込んだ、至って普通のメニューだということをお忘れなく。で、え? タダで付いてくること自体が全国から見ると普通じゃないって?
名古屋のみならず、東海に広がるモーニング
しかし今や、「モーニング」は名古屋メシというよりは、もっと広義な意味で「東海メシ」だと地元ライターとしては声を大にして申し上げたい。統計によると、一世帯当たりの年間喫茶代は、2位が 名古屋市で1万3,547円。堂々の1位に輝いたのは、岐阜市の1万4,481円だそうだ(平成18年(2006)~20年(2008))。
しかし今、東海エリアでもっともモーニングで脚光を浴びているまちは、実は名古屋でも岐阜でもない。地理的には名古屋と岐阜の中間に位置する一宮市なのだ。
一宮では「一宮モーニング協議会」なる組織を立ち上げ、官民一体となってモーニングでまちおこしを企てている。現在の一宮には750軒ほどの喫茶店があるそうで、人口比率でいえば名古屋・岐阜に負けず劣らずの「喫茶店王国」というのは紛れもない事実である。
さて、その一宮モーニングとはどんなものか。「ご当地シバリ」としては、当然だけど一宮市内の飲食店で提供されること。ルーツにならい、卵料理を付けること。そして可能な限り、一宮産の食材を付けること。この3条件が挙げられるそうだ。
同協議会では専門サイトの立ち上げはもちろん、クーポンやマップを作ったり、マスコットキャラクターをこさえたり(なかなかキュート)。そして、一宮モーニングNo.1決定戦「モー1(ワン)グランプリ」を開催するなど、なかなか気合が入っている。
「モー1グランプリ」はスタンプラリー形式で行われる。評価ポイントは、満足度、癒やされ&もてなし度、マスター&ママの高感度など、味だけでなく、スタッフのホスピタリティやサービスもふくむという。
店側もそんな空気を感じ取ったのか、他県ではなかなか類を見ないユニークなサービスを展開する店が続出。インド料理店がモーニングを提供したり、一日中“モーニング”を提供する店まで出てきたりと、個性派がそろっている。
その結果、栄えある金賞に輝いたのは、「カフェ・メールネージュ」。こちらの店のモーニングは、生クリームをのせたフレンチトーストに、サラダやフルーツ、ゆで卵などがセットでついてくる。
銀賞は、トーストの上にホワイトクリームソースベースのトッピングを施した「クリームシチュートースト」が人気の「COCORO CAFE」。そして銅賞は、なんとおにぎりメインという和食モーニングを提供する「Cafe & Dining Karen(カレン)」だ。
●information
COCORO CAFE
一宮市千秋町佐野字郷西40-1
自慢のコーヒーとドレッシング、そしてマスターのギター
では、ここで現地調査といこう。一宮モーニングに詳しい地元在住の友人にオススメの店を聞きつつ、独断と偏見で選んだ訪問先は、中心地から少し離れた場所にある「マロハウス」。自家焙煎(ばいせん)のコーヒーにこだわる、喫茶店やカフェというより「コーヒー専門店」という趣の店だ。
お目当てのモーニングは、一見至ってベーシックなスタイル。さっくり焼き上がったトーストにゆで卵、そしてサラダが付くのだが、サラダは香りごまドレッシングを使っているそうで、このポイントは高い。「このドレッシング目当てに来るお客さんもいるよ」と、マスターの幅光広さんは言う。
1杯出しのオリジナルブレンドは濃厚な味と豊かな香りが特長で、これにモーニングがよい「お供」になっている。なんとも落ち着くひとときなことよ、と午前中からリラックスしていたら、マスターがおもむろにギターを取り出し弾き始めた。
実はこのマスター、地元のイベントや自分の店をステージに歌うシンガー・ソングライターなのだ。「お客さんからリクエストがあって、手が空いた時にサービスで歌ってるんだわ。いつでもOKという訳にはいかんけどね」。
豊かなモーニングメニューとおいしいコーヒー。そして聴かせる歌声。ゆったりとした心地よい空気の中、一宮モーニングタイムは過ぎていくのであった……といっても、モーニングとは日常の一部であることを忘れてはいけない。これは非日常のイベントではないのだ。
ハレとケの分類でいえば、ケに属するもの。話題性はもちろん大事だけれど、それよりも毎日でも通っていけるような居心地の良さ。これこそが、モーニングサービスの真骨頂なのである。