水産総合研究センター(水産研)は11月1日、格子状サンゴ増殖用基盤へ人工的に生産して着生させた造礁サンゴ幼生を、高い生残率で着生・生育させるサンゴ増殖技術を開発し、自然環境下で従来の10倍以上の生残率を達成したと発表した。
成果は、水産研 西海区水産研究所亜熱帯研究センターの研究グループによるもの。成果の詳細な内容は、11月22日~25日まで東京大学で開催される「第15回日本サンゴ礁学会」で発表予定だ。
近年、沖縄を含む世界中のサンゴ礁域で、海水温の上昇により造礁サンゴに共生する藻類が失われる白化現象やオニヒトデの大量発生などによりサンゴ群集が衰退し、サンゴ礁に生息する魚介類も減少している。サンゴ礁の修復・再生は急務となっているが、効果的な手法はまだ確立されていない。
サンゴ礁域の水産資源の回復には、稚魚の成育場として重要な「ミドリイシ属サンゴ」など枝状サンゴ群集の回復が重要だ。しかしサンゴの移植は、小規模には有効な場合があるが、自然環境下では場所にもよるものの、サンゴの幼生の供給量や移植後の生き残りが非常に少ないため、急速な回復は期待できない。また、大規模に実施するにはダイバーの人件費などがかさみ、効果も疑問視されているところだ。
これに対して、サンゴの幼生を利用した増殖技術は、サンゴ断片に比べて1度に大量の幼生を運ぶことができ、海底への接着はサンゴ自ら行うため、手間をかけずに大規模な修復を可能にできるものと期待されている。ただし、これまで国内外のさまざまな研究機関において人工的なサンゴ幼生の着生研究が行われてきたが、自然環境下での生残率は半年後で1%程度しか得られておらず、実用化が困難だった。
水産研では、枝状のミドリイシ属サンゴを主な修復対象として、着生した直後の稚サンゴ(画像1)が生き残りやすい基盤の開発を、国内有数のグレーチングメーカーであるダイクレと取り組み、特許を取得した。しかし、着生から1年後以降の格子状基盤の有効性の検証や、稚サンゴの生残率を高めるための方策など検討すべき課題も残されていたのである。
そこで稚サンゴの生残率を高めるために、生残率を高めるため、
- 幼生の着生数を最適な密度にコントロールする
- 格子状サンゴ増殖用基盤水平かつ2段重ねで設置する
- 格子の間隔を小さくする
などの改良を重ねた。
そして2011年5月に、沖縄県小浜島の南側海域の海底で、密閉したビニール袋の中で約180枚の格子状基盤に枝状ミドリイシの優占種である「ヤングミドリイシ」の幼生を着生させた後、複数の条件下に設置して生残率が調べられたのである(画像2)。
幼生の着生密度のコントロール、格子状サンゴ増殖用基盤を2段重ねとする、格子サイズの小型化などの対策を取って、人工的に生産したミドリイシ属サンゴの幼生を樹脂製のサンゴ増殖用基盤に海中で直接着生させたところ、着生から約1年3カ月後には40cm×40cmの基盤上に最大で185群体(10群体/100cm2)以上の密度、生残率46%)が確認され(写真3)、全基盤の平均生残率も18.1%に達したことが確認された。
これまで、ミドリイシ類を水槽で幼生から飼育して移植用種苗を生産する試験では、10カ月後で生残率約60%が報告されているが、自然環境下で人為的に着生させた後にまったく手を加えずに10%以上の生残率が達成されたのは、世界で初めての成功例になるという。
水産研では今後、この格子状サンゴ増殖用基盤を用いた同手法の特徴を生かし、枝状サンゴを中心としたサンゴ群集が減ってしまった場所(特に砂地やガレ場で回復が進んでいない場所)に人工的に生産したサンゴ幼生と生き残りに適した基盤の両方を導入することで、その後の大規模かつ持続的な回復の基地となるサンゴ群集を効果的に作り上げることを目指すとしている。