生物種固有のはずの「16S rRNA」が異種生物のものと置換可能 - 産総研など

デイビー日高  [2012/10/30]

産業技術総合研究所(産総研)は10月30日、大阪大学(阪大)の協力を得て、生物種に固有と考えられてきた「16SリボソーマルRNA(rRNA)遺伝子」を異種生物由来のものにより置き換えることが可能であることを発見したと発表した。

成果は、産総研 生物プロセス研究部門 合成生物工学研究グループの宮崎健太郎研究グループ長、同・安武義晃主任研究員、阪大大学院 情報科学研究科の北原圭研究員(前・産総研特別研究員)らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間10月30日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」にオンライン掲載された。

画像1。リボソーム30Sサブユニットの立体構造。リボソーム30Sサブユニットは、16S rRNA(緑)と21のタンパク質(白)から構成される超分子複合体だ

リボソームは全生物が持つ細胞小器官であり、核酸にコードされた遺伝情報を機能(タンパク質)へと翻訳する。このような高次の生物機能を担うリボソームは、立体構造も複雑で、バクテリアでは3種のRNAと57種ものタンパク質から構成される。

各構成成分は密接に相互作用しており、構成成分の遺伝子変異の多くは機能破壊(細胞死)を招くと考えられてきた。特にRNAは立体構造上もリボソームの中心を占め、遺伝子の変異に対する感受性が高く、わずかな遺伝子変異がリボソーム機能の崩壊を招くと考えられている。実際、30Sサブユニットに含まれる16S rRNAは生物種に固有な分子として、長年、微生物の系統分類学の指標として使われてきた。

産総研では未知微生物の探索、ゲノム解析、有用遺伝子の探索、進化分子工学による遺伝子機能改変など、微生物機能の探索と利用に関する研究を幅広く行っている。

最近では、リボソームの変異解析により大腸菌のリボソームに翻訳という本来の機能以外にも、「リボヌクレアーゼ」の活性を阻害する機能が備わっていることを発見している)。今回の成果も、リボソームの詳細な機能解析を行う中で得られたものだ。

産総研では、リボソーム30Sサブユニットに含まれる16S rRNAが異種生物由来のものに置き換えられるという予備的な知見を持っており、今回、環境DNA(メタゲノム)から分離した16S rRNAを大腸菌に供給する手法により、網羅的・系統的な水平伝播実験が行われた(画像2)。

画像2は、リボソームの30Sサブユニットの立体構造と16S rRNA遺伝子の水平伝播実験。異種生物由来の16S rRNA(画像中の赤色、青色)を大腸菌16S rRNA(緑色)と入れ替えて機能相補性に基づき選抜するかどうかが調べられた。

画像2。リボソームの30Sサブユニットの立体構造と16S rRNA遺伝子の水平伝播実験

環境DNAは環境中に含まれる微生物ゲノムの混合物で、極めて多様性に富んでいる。16S rRNA遺伝子の末端配列は微生物種間で相同性が高いため、共通の「オリゴヌクレオチドプライマー」を用いてさまざまな微生物由来の16S rRNA遺伝子を「PCR(ポリメラーゼチェインリアクション)法」により増幅することが可能だ。

こうして得たさまざまな生物種由来の16S rRNA遺伝子を、大腸菌の16S rRNA欠損株に導入。16S rRNA遺伝子は生育に必須であり、導入した16S rRNAが大腸菌で機能しないと細胞は生育しない。この性質を利用し、導入した16S rRNAの機能を判別した。

その結果、大腸菌の16S rRNA遺伝子と綱のレベルで異なる微生物由来の16S rRNA遺伝子(配列相同性は80%程度)でも大腸菌を生育させることができたのである。増殖の倍加時間は野生型の約35分と比較し遜色のないものから最大でも90分程度であった。

さらに、配列相同性の低い16S rRNAがいかにして複雑なリボソームに組み込まれるのか、配列の違いが構造・機能にどのように影響するのかを調べるために、得られた配列と大腸菌の該当する部分のそれぞれの2次構造の比較を実施。

代表的な例として、「ヘリックス21」と呼ばれる領域について、配列の違いと2次構造を示したのが画像3だ。塩基の配列が異なっていても2次構造が維持されれば、多くの場合16S rRNAの機能が維持されることが判明し、生物種固有と思われていた16S rRNAも、配列そのものではなく2次構造が機能を発揮するために重要であることがわかったのである。

画像3は、大腸菌16S rRNAと異種生物由来の16S rRNAで大腸菌で機能するもののヘリックス21領域の構造。E.coliは大腸菌の16S rRNA遺伝子。A01、A02は、大腸菌16S rRNA遺伝子欠損株で機能した異種16S rRNA遺伝子の代表例。赤字は大腸菌と比較して変異している箇所。

画像3。大腸菌16S rRNAと異種生物由来の16S rRNAで大腸菌で機能するもののヘリックス21領域の構造

生物種に固有と考えられてきた16S rRNA遺伝子が、綱のレベルで異なる生物種と相同性を示すという今回の発見は、16S rRNAには変異を受け入れる余地が十分にあるということを意味している。

このことは、16S rRNAの種特異性に基礎を置く従来の系統分類学に疑問を投げかけるものだ。少数ではあるが、これまでの研究によって、ゲノム中に配列が大きく異なる複数の16S rRNAを含む微生物も報告されており、従来の系統分類学の見直しが求められる。

また、バクテリアで種を超えて16S rRNAの機能補完が起こりうることは、それを含むリボソーム自体が従来考えられていたよりもはるかに変化しやすい分子であることを意味しているという。

これは、リボソームの積極的な機能改変へとつながる。リボソーム機能のわずかな違いは細胞内のタンパク質発現全体を変動させるため、リボソームの機能改変手法が細胞工学の新たな手法として発展する可能性があるとしている。



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