北海道大学(北大)などの研究グループは、太陽光のエネルギーを高効率でレーザー光に変換できるCr,Nd:CaAlO4結晶の開発に成功したと発表した。同成果は、同大大学院工学研究院の樋口幹雄 准教授と理化学研究所(理研)基幹研究所光グリーンテクノロジー特別研究ユニットの和田智之ユニットリーダーらによるもので、9月19日に開催された日本セラミックス協会第25回秋季シンポジウムにて発表された。
持続可能なエネルギー開発という観点において、太陽光をエネルギー源としたレーザーが注目されている。太陽光の波長は紫外線から赤外線の領域にわたって広く分布しているが、そのエネルギーの大部分は波長約500nmをピークとする可視光の領域にあるため、太陽光をエネルギー源とするためには波長500nm帯近傍の可視光を効率よく吸収できる材料が必要とされていた。
これまでの研究では、結晶材料のCr,Nd:YAGを用いた研究が先行している、同材料は太陽光のエネルギーが最大となる波長500nm帯近傍での吸収がほとんどないほか、その他の波長領域においても吸収効率があまり大きくないことから、太陽光エネルギーを高効率でレーザー光 に変換するところまでは実現できておらず、同材料に代わる太陽光のエネルギーを高効率で吸収できる結晶材料が求められていた。
太陽光のエネルギーが最大となる500nm帯近傍の波長で大きな吸収係数、吸収断面積を有するレーザー媒質の候補として今回の研究では、Ndの発光帯での自己吸収をなくせる構造で、かつCr3+およびNd3+を同時に置換固溶できるCaYAlO4に着目し、CaYAlO4にクロム(Cr)とネオジム(Nd)を同時に適量添加した結晶を、浮遊帯溶融法と呼ばれる手法を用いて作製したところ、赤色透明の結晶が得られた。
このCr,Nd:CaYAlO4結晶は、紫外領域から可視領域にわたる広い吸収域を有しており、太陽光のエネルギーが最大となる500nm帯近傍の波長でも十分な吸収を示すことが確認された。
また、従来材料であるCr,Nd:YAGと同じ波長(430nm)でその吸収断面積を比較したところ、70倍以上の値を示したという。このような吸収特性は既存の材料にはなく、開発した結晶特有のものだという。さらに、Crによって吸収されたエネルギーの大部分は効果的にNdに移動していることが、その蛍光特性から実証されたという。
これらの結果から研究グループでは、同結晶材料を用いることで、太陽光エネルギーを高効率でレーザー光に変換できるようになることが期待されるとコメントしている。