東北大学・未来科学技術共同研究センター・小濱泰昭教授、産業技術総合研究所、古河電池と日本素材は、共同研究の成果としてマグネシウムを用いた燃料電池を開発したことを発表した。

今回開発したマグネシウム燃料電池(一次電池)は、各家庭に安価な非常用電源として設置が可能。また、太陽光発電装置などと併用することで、安価で効果的な非常用電源として備えておくことができるというもの。

理論上、マグネシウム燃料電池はリチウム2次電池の数倍の電気量を有するため、実用化研究が行われてきたが、マグネシウムは発火の危険があること、電極が電解液に溶解する(自然放電)、という2つの大きな技術的な問題があるために、実用化が遅れていた。

東北大学は、1998年から宮崎県にある鉄道総合技術研究所 旧リニアモーターカー実験施設(日向市美々津)において、高効率高速輸送システム「エアロトレイン」(空気の地面効果により浮上、非接触走行)の実験を行っているが、2011年には産総研九州センターが開発した「難燃マグネシウム(Mg-Al-Ca合金)」を車体材料として使用することで、時速200kmでの浮上走行実験に成功した。

難燃マグネシウムは「燃えない」という特徴を生かして空気中でも溶接できるMg合金であり、併せて特性を調べている内に海水に対する耐食性が従来のMg合金よりも優れていることが判明したことから、今回、マグネシウム燃料電池の開発が行われたという。

今回開発された「マグネシウム燃料電池」は、「水素燃料電池」の原料である水素ガス(気体)をマグネシウム(固体)に置き換えた構成で、「空気中の酸素を使う」という発電原理は、水素燃料電池と同じである。

水素燃料電池は、高価な白金触媒を多量に必要とすること、危険な水素ガスの生産・供給・貯蔵技術が確立していない、という問題があり、実用化にはまだ多くの解決すべき課題がある。 これに対して、今回開発されたマグネシウム燃料電池は、「白金触媒は不要、あるいは微量」で済む。また、問題点だった「難燃性」と「耐海水性」は、難燃マグネシウム開発により改善され、実用化の前の予備実験でも1.55Wh/gのエネルギー密度(理論密度の70%)を達成したという。

今回試作されたマグネシウム燃料電池は、電気量60Ah、サイズ26cm×17cm×10cm。今後は性能評価を行い、据え置き型電源、または乗り物(電気自動車)用の電池として1年以内の商品化を目指すとしている。また、同技術は2011年4月18日に国内特許出願を完了し、外国出願の手続き中だという。

なお、マグネシウム燃料電池の開発試作は、過去にマグネシウム海水電池の開発を経験した古河電池が担当した。

試作したMg燃料電池(108個の超高輝度LEDを長時間点灯している様子)の写真(左)と、1セルの起電力(難燃Mg+18%塩水+炭素極(白金触媒なし、20Ω負荷、30時間)の状況(右)