高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、新潟大学とフランス国立科学研究センター(CNRS)と共同で、孤立系の原子が光子を1つ吸収した時に同時に3つの電子を放出する「光三重イオン化」の特殊な過程を実験的に識別し、それらの電子の運動エネルギー相関の観測に成功したと発表した。KEK物質構造科学研究所の伊藤健二教授、新潟大学の彦坂泰正准教授(元放射光科学研究施設研究機関研究員)、CNRSのPascal Lablanquie研究員およびFrancis Penent研究員らによる研究で、成果は米物理学会刊行の「Physical Review Letters」2011年9月9日号に掲載された。

アインシュタインの光量子仮説による説明では、「光電効果」は、光はエネルギーの塊である粒子の「光子」として振る舞い、物質中の1つの電子に全エネルギーを与え、そのエネルギーによって電子が物質から飛び出るとされている。

しかし、近年の研究によって、物質として最も単純な系である原子や分子の光電効果では、1つの光子の吸収によって複数の電子が飛び出ることが頻繁に起きることがわかってきた。この現象は、原子や分子内の電子がそれぞれまったく独立に運動しているわけではないことを示しており、この現象を詳細に調べることで物質中の電子間の相互作用の様相を知ることができるのである。

研究グループでは、国際的な共同研究において開発した超高感度の「多電子同時計測手法」を利用して、ネオン原子に軟X線を照射した時に内殻軌道と価電子軌道から合計3つの電子が同時に表出される光三重イオン過程の運動エネルギー相関を観測した。

その結果、1つの内殻電子に関わる光電効果に付随して、内殻電子と2つの価電子との相互作用により合計3つの電子の放出が起こっていることが明らかになった。

今回の多電子同時計測手法は、原子や分子の光イオン化過程の詳細な観測に極めて有効であり、この手法の利用によって研究グループは光三重イオン化以外にも原子や分子の光イオン化に関わる興味深い過程を次々と見出すことに成功したとしている。

画像1。ネオン原子への1250eVの軟X線照射により放出された3つの光電子の運動エネルギー相関グラフ