横浜市立大学(横浜市大)らは9月12日、高血圧症の成因に関与する遺伝子を解明したと発表した。横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学講座の梅村敏教授(附属病院長)、愛媛大学田原康玄講師、三木哲郎教授、大阪大学荻原俊男名誉教授、滋賀医科大学上島弘嗣名誉教授、東北大学大久保孝義准教授、国立循環器病センター岩井直温部長らが組織する研究グループによる成果だ。

研究グループは、全世界10億人以上の人が罹患している高血圧症を解決するために設立された、The International Consortium for Blood Pressure Genome-Wide Association Studies(ICBP-GWAS)という国際共同研究組織に参画して、世界規模でのゲノム解析を実施して今回の成果に至った。研究成果は、日本時間9月12日午前2時付で英科学雑誌「Nature」オンライン版に掲載され、2011年9月刊行の「Nature」への掲載も予定されている。

高血圧症は生活習慣病の内で最も患者数が多く、日本では4000万人、世界全体だと前述したように10億人以上になる。高血圧症は血圧値が上は140、下は90mmHgと定義され、日本の死亡原因の第2位である心疾患や、第3位の脳卒中などの原因となる動脈硬化症の最大の危険因子となっている。

高血圧症の約90%は「本態性高血圧症」だが、実はその成因は不明。環境因子が6~7割、遺伝因子が3~4割という割合で関与していると考えられているが、実際のところまだわかっていないのである。

環境因子は食塩摂取過多、肥満、運動不足、飲酒過多などが挙げられ、生活習慣の改善である程度はコントロールが可能だ。一方の遺伝因子をもし明らかにすることができれば、テーラーメイド医療として予防法・治療法の選択を個々人の遺伝子に合わせて行うことができる可能性が考えられることから、関連する遺伝子の解明が研究されてきた次第だ。これまでの研究では、2009年に全ゲノム領域の約250万個の遺伝子多型と血圧との関係を約2万人の欧米人サンプルを用いて検討した結果、全染色体の13領域が血圧と関係することが複数報告されている。

今回の研究では、20万人以上の欧米人サンプルと約3万人の東アジア人、約2.4万人の南アジア人、約2万人のアフリカ人のサンプルを用いて、前述した2009年の研究の遺伝子を含めて全ゲノムの250万人の一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)と血圧との関係が検討された。

結果、「ATP2B1」を含め、欧米人で28主、東アジアで9主、南アジアで6主の遺伝子が血圧と関連することが判明した。これらの遺伝子は水・電解質バランスや腎機能に関連するものなどであり、この内のいくつかは今回の研究で初めて高血圧との関連が見出された遺伝子だ。この規模は、全世界の200を超える研究機関(約300人以上の共著者)によるゲノム研究上最大の研究である。

なお、今回の成果によって、本態性高血圧の病因解明と新たな治療ターゲットの導出、テーラーメイド医療・要望の可能性を大きく広げたとしている。