富士通研究所とFujitsu Laboratories of Americaは、サーバを複数組み合わせて高性能化したマルチプロセッササーバの通信経路として利用されるバックプレーンにおいて、データの伝送距離を従来と比べて約1.7倍に延伸できる、10Gbpsの多チャネル高速送受信回路を開発した。同成果は、2011年2月20日より24日まで米サンフランシスコで開催されている半導体の国際学会「ISSCC 2011(International Solid-State Circuits Conference)」において発表された。
データセンターでは、高性能・高密度なサーバシステムとしてブレードサーバや大規模なマルチプロセッサ・サーバが活用されているが、これらのサーバは、プロセッサやデータ通信用の集積回路を搭載したプリント配線板を、バックプレーンと呼ばれる相互接続用のプリント配線板を用いて高密度に接続し、互いにデータを通信しながら処理を行う構成となっている。
今後、より高性能なシステムを実現するためには、バックプレーンを通したデータ送受信を高速化し、かつ多数のプロセッサを結合する大規模化が要求されることとなるが、バックプレーンを通して10Gbpsへと伝送速度を高速化すると、伝送損失により信号が歪み、データを正しく伝送できなくなるほか、信号の歪みが大きくなると、データの1と0を判定するためのクロック成分を精度良く抽出することも難しくなる。
信号の歪みは、伝送速度が高速なほど、また伝送距離が長いほど大きくなり、従来の多チャネル送受信回路では10Gbpsで70cm程度の配線距離が限界であった。そのため、本体の横幅が85cm程度ある大規模サーバのバックプレーンでは伝送の高速化が難しく、高速送受信回路の伝送距離を長距離化することが課題となっていた。
今回、研究チームでは、バックプレーンの長距離配線で顕在化する振幅歪みに加えて位相歪みを補正する新しい信号処理アルゴリズムを開発し、10Gbpsで最大41dBという大きな損失による信号歪みでもデータを正しく補正し伝送することを可能とした。
具体的には、バックプレーンの長距離配線で顕在化する位相歪みに着目、位相歪みを検出して送信側と受信側の両方の信号補正回路(イコライザ回路)を同時に適応制御することで、データを正しく補正する技術を開発したほか、長距離配線による歪みを補正した後も残ってしまうノイズ成分の影響を軽減するため、伝送データの中でノイズの影響が少ない部分を選択し、より正確なクロックを得る回路を開発。正確なクロックを抽出することで、データの1と0をより正しく判定できるようした。
この結果、伝送距離を従来の70cmから約1.7倍の長距離化となる約1.2mへと延伸することに成功。今回の高速送受信回路を搭載した集積回路を用いることで、伝送速度を高速化しつつ伝送距離を伸ばすことができるため、プロセッサを多く搭載した大規模で高性能なサーバシステムが実現可能となるほか、従来は信号の歪みを低減させるために損失が小さく高価な材料のプリント配線板を用いていたのに対し、損失が比較的大きい安価な材料のプリント配線板でも10Gbpsの高速伝送を実現できるようになるため、コスト削減にもつながると研究チームでは説明している。
なお、研究チームでは、今後、先端プロセス技術に同技術を展開することで、サーバシステム製品への適用を進めていく計画としている。