広島大学のナノデバイス・バイオ融合科学研究所は、シリコン結合タンパク質「Si-tag」を接着分子として利用することで生体分子とシリコンデバイスを融合したバイオセンサの開発に成功したことを発表した。

これにより生体分子の有する特異的物質認識機構・触媒機能と、微細加工・集積化が容易なシリコンデバイスを組み合わせることで、病気の診断に利用されるバイオマーカーを低コストで測定することが可能となるという。

今回の技術を活用した予防医療に向けバイオマーカーの網羅的測定を実現するバイオセンサの概念図

具体的にはシリコンリング光共振器上に抗体などの各種タンパク質を固定化することで共振器表面の屈折率変化に基づく物質検出が可能となることに着目。同研究所が独自に発見したシリコン結合タンパク質「Si-tag」を接着分子として利用することで、デリケートな生体分子を迅速かつ安定にシリコンデバイス上に固定化することを実現した。

従来の共有結合法でタンパク質固定化を行うためには基板表面の煩雑な化学修飾処理が必要だったが、同技術では目的とするタンパク質をあらかじめ遺伝子工学的にシリコン結合タンパク質と融合しておけば、その溶液をシリコン基板上に接触させるだけで当該タンパク質は速やかに基板表面に吸着する。このため、タンパク質固定化にかかる時間は5 分未満と、従来の共有結合法と比べて数十分の一まで短縮でき、タンパク質とシリコンデバイスの融合を簡単に行うことができる。

またリング共振器はサイズが数十μm程度のため、抗体の使用量を最小限に抑えることができるほか、固定化タンパク質を可逆的に解離させ再固定化を行うことで、デバイスの再生や再利用が可能であり、さらなる低コスト化が可能となるという。

さらに、半導体加工技術によるチップ上への集積化が可能なことから、バイオマーカーの網羅的測定に適しており、同研究所では、同技術の実用化を目指し、固定化タンパク質の安定性評価やデバイスの高感度化、専用測定機器(発光部および受光部)の開発を進めて行くとしている。

今回開発された技術と従来手法の比較表

加えて、集積化した状態におけるデバイスの安定動作の確認や信頼性の確保などの課題への対応も進めるために、半導体加工・オンチップ光配線や光学測定機器の技術開発・商品開発に関心を持つ、あるいは実績を有する企業や組織などと、意見交換や技術相談、測定機器の共同開発を提案していくほか、現在注力しているバイオテクノロジーや医療分野に加えて、将来的にはMEMSやナノテクノロジー、材料分野で広く利用される技術としても応用されることを目標とした活動を進め、これらの分野で技術開発や商品開発に関心を持つ、あるいは実績を有する企業や組織などと、シリコン結合タンパク質を利用したバイオ融合デバイス開発に関する意見交換や技術相談、共同研究を提案していくとしている。