産業技術総合研究所(産総研)のナノテクノロジー研究部門 ナノシミュレーション研究グループは5月29日、高分子の粗視化モデル(散逸分子動力学法)を用いて、半導体のリソグラフィにおけるパターニングプロセスのシミュレーション手法を開発、パターン側壁荒れ(line edge roughness:LER)の生成プロセスを高分子鎖のレベルで再現、可視化する技術を開発したことを発表した。

半導体リソグラフィのパターニングプロセスは、回路をSi基板に数十nmの幅の線で回路パターンを焼き付ける前に、基板上に感光性の高分子材料(フォトレジスト)を塗布し、回路部分、あるいは回路でない部分にArFやKrF、i線などの光を照射して、光反応によってフォトレジスト薄膜に回路の基を描いている。

この光が反応した部分、あるいは逆に未反応の部分を現像液で洗い流して、数十nmの線幅の回路パターンを作成するわけだが、現像の際に、そのフォトレジストのパターン側壁に荒れが生じることがプロセスの微細化とともに問題となってきていた。

プロセスの進行中はパターンの構造を測定できないため、原因究明には、さまざまな条件でパターンを作製し、得られた最終パターン形状からプロセスで生じている現象を推測するのが一般的であった。同研究では、パターニングプロセス中に生じている現象を解析するための手法の1つとして、シミュレーションモデルの開発を行った。

ただし、従来は半導体リソグラフィのパターニングプロセスのシミュレーション手法の多くが、メッシュを用いたモデルであったのに対し、今回は、高分子鎖を鎖状分子として取り扱える粗視化モデルの1つである散逸分子動力学法を基にしたモデルを用いてフォトレジストの高分子を表すことで、パターニングプロセスの過程での、鎖状分子の動的な変化をシミュレーションすることに成功した。

高分子フォトレジスト膜を用いたパターニングプロセスのシミュレーションの概要(左が初期構造。濃い緑の粒子が気相粒子を、薄い緑の粒子が現像液粒子を、赤の粒子が現像液に溶けないフォトレジストを、青の粒子が現像液に溶けるフォトレジストを表す)

具体的には、気相粒子と現像液粒子、現像液に溶けないフォトレジスト、現像液に溶けるフォトレジストを用意し、露光による反応のシミュレーションを行う。現時点では、同過程に光酸発生剤の拡散は取り入れていないが、今後は取り入れる予定としている。また、気相粒子を現像液粒子に置き換えることにより、現像液中に溶けるフォトレジストが鎖状のまま拡散していく様子も計算できたという。

実験では、通常、測長走査型電子顕微鏡を用いて、パターン側壁の荒れ(LER)の定量的な測定が行われるが、その電子顕微鏡像をシミュレート。これにより、初期構造では側壁の荒れがほとんどないのに対して、溶解過程で荒れが大きくなっていることが可視化できた。

上図がシミュレーションによって得られたパターニングプロセスのスナップショット(赤の粒子は、パターンとして残るフォトレジストの粒子を、青の粒子は、現像液に溶けるフォトレジストを表す。現像液である溶媒の粒子は表示していない)、下図は側壁イメージの測長走査型電子顕微鏡(CDSEM)像をシミュレーションした結果

加えて、現像液に溶ける層と溶けない層の間の界面厚が薄い場合と、界面厚が厚い場合について、それぞれシミュレーションしたところ、界面が薄い場合に、側壁の荒れが小さいことが明らかになったという。

同研究で開発されたリソグラフィのパターニングプロセスのシミュレーション手法は、ナノメートルスケールでのパターニングプロセスのモデルであり、比較的汎用性が高いと考えられるという。

今後は、EUVレジストプロセス、二重露光プロセス、液浸露光プロセスなどの近年開発されているリソグラフィ技術への適用を目指し、モデルの拡張などを行っていく予定。また、個々のフォトレジスト材料について実験データと照合することで、フォトレジスト材料、プロセス双方に対して、定量的に対応させるための開発を進めるともしており、国内外のフォトレジストメーカーなどと連携して、最新技術への応用を目指す方向だ。