ダイハツ工業は、産業技術総合研究所と協力し、燃料電池車の電極触媒材料として従来は欠かせなかった貴金属(白金)をまったく使用せず、燃料には水加ヒドラジンを安全な状態で使用することでCO2を全く排出しない燃料電池の新たな基礎技術を開発した。この燃料電池技術では、「省資源、低コスト」「高出力」「燃料の安全で容易な取り扱い」が可能となるという。
従来の燃料電池車に搭載されている燃料電池は、電解質膜が強酸性のため、高い耐蝕性が求められる。そのため電極触媒材料に高価な白金の使用が欠かせない。加えて、その膨大な白金使用量は燃料電池車普及の課題ともなっている。ちなみに白金使用量は、1台あたり100g以上だという(ダイハツ調べ)。
今回のダイハツが発表した新技術では、正反対のアルカリ性電解質膜を用いることにより、電極触媒に白金以外の安価な金属(コバルト、ニッケル系)、セパレーターなどの構成部品に安価な材料が使用できるため、貴重な資源である貴金属の省資源と大幅なコスト削減が可能となるという。
また、従来メタノールなどの液体燃料を燃料とする燃料電池は、反応性が乏しく自動車に必要な出力が得られなかったが、反応性に優れた水加ヒドラジンを燃料とし、加えて電極触媒などを新開発することにより、白金を使用する水素燃料電池に匹敵する0.5W/cm2の高出力が得られた。
水加ヒドラジンは、液体燃料のため充填時の取り扱い性が容易で、エネルギー密度も高いという特長をもっている。また、CO2を全く排出しない、合成可能な循環型燃料である。一方で、高濃度の水加ヒドラジンは毒・劇物取締法において劇物に指定されており(液体濃度30%超の場合)、ガソリンや大部分の工業薬品と同様の安全性への対策が必要である。ダイハツは安全に使用できることを目的に、燃料タンク内でポリマーによって水加ヒドラジンを固体化。衝突などによる燃料タンク破損でも燃料が拡散しづらく、人体・環境へ与える影響を最小限に抑えた。また、燃料電池の発電時には適時、適量の液体として使用する。
ダイハツは地球環境保全の観点から当技術の研究開発を加速させていくが、現段階では燃料を固体化するポリマーの性能向上、燃料電池の性能と耐久性の向上、インフラ整備などの課題が残されているため、関係各所と幅広くパートナーシップを結び、更なる研究開発を進めたいと考えている。なお、本技術は化学分野で最高のインパクトファクターを誇るドイツの学術誌「Angewandte Chemie(アンゲバンデ ケミ)にて「Hot Paper(重要論文)」として認められた。