多種多様なインダストリーのデータ解析やモデリング業務を支える数値解析ソフトウェア「MATLAB/Simulink」。このMATLAB/Simulinkをテーマにした国内最大の年次イベント「MATLAB EXPO 2017 Japan」が、10月31日にグランドニッコー東京 台場で開催される。

今年のテーマは「Autonomous Anything」。あらゆる領域で進む自動化や自律システムを支えるプラットフォームとしてのMATLAB/Simulinkの魅力が、さまざまなユーザー事例とともに紹介される予定だ。本稿ではMathWorks Japan 宅島章夫氏のインタビューのもと、計7トラックで開催される午後からのブレイクアウトセッションの見どころを紹介しよう。

MATLAB EXPO 2017 Japan_総力特集
1回目:豊富な事例講演で「Autonomous Anything」の気づきを得る - MATLAB EXPO 2017 Japanがいよいよ10月31日に開催!
2回目:ユーザー事例講演が約5割! 10月31日開催の「MATLAB EXPO 2017 Japan」を紐解く(本記事)

豊富なユーザー事例が示す、Autonomous の今

MathWorks Japan 宅島章夫氏

今年のトラック構成は、「Track A: エンジニアリングデータアナリティクス」「Track B: ディープラーニング」「Track C: ADAS/自動運転」「Track D: ロボティクス」「Track E: モーター制御と電力制御」「Track F: 実装ソリューション」「Track G: システムモデリング」だ。

宅島氏はまず、「ユーザー事例講演が多いことが今年の特徴です。業種が異なる企業でも、個々の取り組みには共通する点が多くあります。単に成功例を紹介するだけでなく、実際にどこでどう苦労したかも聞くことができますので、自社の取り組みに生かすためのヒントが得られるはずです」とイベント全体について説明する。

講演は合計37セッション用意されている。宅島氏が触れたように、ユーザー単独の事例講演は昨年の7セッションから15セッションと約2倍に増加。MathWorksとユーザーとのジョイントセッションを含めると事例講演は計18セッション、全体の半数が事例講演という豪華さだ。それぞれのトラックにはどのような企業が登壇するのか。以下、詳しく見ていこう。

ジェイテクト、スズキが事例を披露する「エンジニアリングデータアナリティクス」

エンジニアリングデータアナリティクス(Track A)は、膨大なデータから新しい知見を得るための分析手法、IoTやセンサーデータを活用したプロセス改善、故障予測、そして予知保全までを扱うトラックだ。

「キーとなる技術要素は機械学習ですが、本トラックでは機械学習を行う前のデータの処理や、アルゴリズムの検討、組込みシステムやエンタープライズシステムへの展開までを扱います。一連のワークフローをいかにして構築するか、この点に悩まれているユーザーが多く、工程の自動化を含めたヒントをご紹介できると思います」(宅島氏)

Track A: エンジニアリングデータアナリティクス

工場系IoTの事例としては、トヨタグループのジェイテクトによる「設備と共に人が成長する工場を描く自工程完結型エッジコンピューティング」が注目だ。イベントのテーマである「Autonomous Anything」をTPS(トヨタ生産方式)でどう実現しているかが理解できるはずだ。

また、スズキによる「機械学習を用いた官能評価モデリングと車両運転性能の最適化」では、従来の人間による官能評価の知見を活かした定量評価という野心的なプロジェクトが紹介される。人間の感覚に基づいた官能評価は、個人差や評価時の気分、感情といった不確定要素が作用するため、再現性が乏しい。その課題をどう解決しているのかに要注目だ。

このほか、MathWorksによる「データ活用を成功させるための解析ワークフロー」や「MATLAB/Simulinkによる予知保全・故障予測」「MATLABで、はじめよう! IoT」が同トラックでは実施される。

立命館大学、ヤンマーが先進事例を紹介する「ディープラーニング」

ディープラーニング(Track B)は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使った画像解析から、CNNを使って物体検出を行うR-CNN(Regions with CNN)の実践例、回帰・分類などを扱うトラックだ。

「単なる画像の分類、判別からさらに発展させて、例えば画像のどこに人が映っているのか、何歳なのかといった、より応用的な物体検出や回帰の問題にも焦点をあてています。実際のビジネス現場でどのように応用されているのかをお伝えしたいですね」(宅島氏)

Track B: ディープラーニング

中でも注目は、立命館大学による「人工知能(畳込みニューラルネットワーク)の医療への応用」と、ヤンマーによる「ヤンマーにおける機械学習/深層学習~MATLABを用いた取り組み事例紹介~」という2つの事例講演だ。

立命館大学の事例では、分類問題の適用例として、CNNによる病理像の自動パターン分類、回帰問題の適用例として、CNNによる医用画像の高画質化を紹介する。さらに、研究成果の臨床応用において、MATLABの画像処理機能や、GUI作成機能の有用性も触れられる予定だ。また、ヤンマーの事例では、R-CNNを用いた農作物画像からの物体検出と、特徴を自己学習する「Deep Auto Encoder」を用いた振動データから異常を検知する手法などを紹介する。ディープラーニングは画像系での活用が盛んだが、同セッションでは時系列での異常検知というアプローチの話も聞くことができる。

このほか、MathWorksからは「画像分野におけるディープラーニングの新展開」「ディープラーニングによる画像認識の基礎と実践ワークフロー」「センサーデータのためのニューラルネット~時系列データの分類と異常検知~」といった内容のセッションが実施される。

ヤマハと日立オートモティブシステムズが登壇「ADAS/自動運転」

ADAS/自動運転(Track C)では、クルマに限らず、水中や水上の移動体、空を航行するドローンなど含めたUAV(Unmanned Aerial Vehicle)を扱う。

「ADAS、自動運転のいずれも、『認知したデータをもとにどう自身を動かすか』が重要となります。特に自動運転では、例えば『人がいる』と認識した場合、これを避けるために、起こりうる事態を理解したうえで推論するという判断がプロセス上に入ってきます。この場合、パスプランニングといって、人やモノの動きの軌跡をどう計画するかがキーとなります。本トラックで用意している講演は、このパスプランニングの最適化に向けても大きなヒントとなるでしょう」(宅島氏)

Track C:ADAS/自動運転

ユーザー事例では、ヤマハ発動機による産業用ヘリコプター、無人小型艇、無人バギー車を中心とした無人機システム(Unmanned Systems)の研究開発の成果発表に注目したい。ここでは同社の無人機システムとともに、その制御開発におけるMATLAB/Simulinkの活用事例が紹介される予定だ。

また、日立オートモティブシステムズのセッションでは、モデル予測制御(MPC)を用いた実用的なACC(アダプティブクルーズコントロール)の開発事例が紹介される。従来のACCでは渋滞中における走行制御の応答が遅いという課題があった。これに対する改善策として、アクチュエータの出力制約などを明示的に扱うことが可能なMPCを用いた手法を示す。

このほか大阪大学による、一般道自動運転向けオープンソースソフトウェア「Autoware」とMATLAB/Simulinkの連携に関する講演や、MathWorksによる「自動運転・ADASの開発・検証ソリューション」「自動運転に向けたコード検証によるセキュリティ対策」にも注目したい。

慶應義塾大学と芝浦工業大学が研究成果を発表する「ロボティクス」

ロボティクス(Track D)は、ADAS/自動運転と技術的に重なる部分が多いトラックであり、Track Cとセットで聴講することをおすすめしたい。

「先ほど触れたパスプランニングのような、データから自分で位置をマッピングして次にどう行動するかを決める技術がロボティクス全般で重要度を増しています。こうした『今、ロボティクスにおいて注目すべき事項』を、先進的な研究事例とともに紹介します」(宅島氏)

Track D:ロボティクス

パスプランニングについては、MathWorksによる「MATLABではじめる自律移動システムのためのパスプランニング」で、手法も交えながら紹介される予定だ。

また、慶應義塾大学のセッションでは「不整地走行力学解析を基盤としたフィールドロボットの研究開発」と題し、宇宙ロボット、建設ロボット、農業ロボットなど、様々なフィールドロボットの設計、力学解析、自律移動に関する研究開発の成果を紹介する。

芝浦工業大学のセッションでは「MATLABを用いた実践ロボット制御教育」がテーマだ。制御の基礎理論、ロボティクスの基礎理論には、しばしば難解な数学が登場するが、それらを理解し応用するためには体系的な講義と連動したシミュレーションと実験が必要だ。芝浦工業大学での教育の実践例を紹介する同講演は、これから社内の技術者をトレーニングしていく上でも参考になるだろう。

このほか、MathWorksが用意する「MATLAB/Simulinkによる無人航空機の設計・開発」も、実際の開発事例を交えた実践的な内容となっている。

村田製作所、パナソニック、ルネサスが登壇。「モーター制御と電力制御」

モーター制御と電力制御(Track E)は、文字通り制御系をテーマにしたトラックだ。

「モーター単体に対していかに制御系を設計するか、といった視点から、パワーマネジメントをシステムとして全体的に捉えた場合にどう実装していくべきかという視点まで、総合的に取り扱います。ここで鍵となる『モデルベースデザイン(MBD)』について、様々な事例講演から紹介します」(宅島氏)。

Track E: モーター制御と電力制御

ユーザー事例講演は、村田製作所による「ムラタ流MBD:エネルギーマネジメントシステム向け組み込み開発の事例」、パナソニックによる「モデル予測制御を用いた蓄電池エネルギーマネジメント制御開発」、ルネサスエレクトロニクスによる「半導体メーカーが提供する高精度EVモーター制御Model-Based Design環境」、立命館大学による「MATLAB製品を用いたリチウム・イオン電池の実践研究」が用意されている。

村田製作所は、プラントモデルの構築、制御器の最適化設計、100%自動コード生成のモデル構築、シミュレーションとコード生成の両立、モデルのモジュール化、C言語環境との組み合わせ、人材育成などを実務経験ベースで紹介。また、パナソニックは、最低限の蓄電池容量で電力需給バランス保持を実現する「蓄電池エネマネ制御」について、家や工場などに対してこれを検証した事例を紹介する。ルネサスでは、マイコンやパワーデバイスといった半導体モデリングについて、同社が開発したEV/HEV制御マイコンシステムの事例を通して紹介する。

こうしたあらゆる領域における事例講演の前段として、MBDの基礎から応用までを解説する「今からはじめるパワエレ&モーター開発におけるモデルベースデザイン~最新トレンドを交え~」も用意されている。

高エネルギー加速器研究機構が明かす「実装ソリューション」

実装ソリューション(Track E)は、「『Autonomous Anything』が広がるなかで、いかにこの気づきを得ていくか」に対するMathWorksの1つの回答だ。

「アルゴリズムやモデルを実際にターゲットにどう落とし込んでいくかは、Autonomous化における大きな課題です。FPGA、GPUなどの新しい技術が出てきたことで、いかにしてバランスをとりながらシステムを実装していくかに悩まれる方が増えてきました。それに対して当社のツールがどう使えるのかを解説します」(宅島氏)

Track E:実装ソリューション

注目の講演は、高エネルギー加速器研究機構による「HDL Coderを使ったニュートリノ生成用加速器電源における電力制御法の開発」だ。茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCでの取り組みについて、高精度の電力変換器が必要な大強度陽子加速器の背景から、実際の電力変換器の開発、導入までの詳細を報告する。

また、新潟大学による「MATLABで開発するカメラ搭載Raspberry Pi Zeroローバー」では、MATLABの機能や環境を利用した教育への適用事例として、Raspberry Pi Zeroと連携したカメラ搭載ローバーの開発事例を紹介する。

MathWorksの講演では、GPU実装という、同社として初のテーマを掲げた「いまからはじめる組み込みGPU実装~コンピュータービジョン・ディープラーニング編~」や、コード生成の事例と最新動向を語る「ユースケースにもとづく量産コード生成技術の進化」「MATLABコードからの組み込み用Cコード生成のワークフローと最適化のコツ」を提供する。

TTDC、理化学研究所ベンチャーが登場する「システムモデリング」

システムモデリング(Track F)も、実装ソリューションと並んで「気づき」のヒントが得られるセッションが並ぶ。

「制御だけでなく、対象物であるプラントも含めたシステムモデリングが重要になってきました。いかに対象物を効率的に作って、設計、検証するか。このテーマについて、さまざまなシステムの事例を紹介します」(宅島氏)

Track G: システムモデリング

トヨタテクニカルディベロップメントのセッション「FPGA/マルチコアCPUを活用したプラントモデル並列化技術について」では、大規模化・詳細化するプラントモデルのシミュレーションを高速化する手法として、マルチコアCPU向けFPGA実装向けのモデリングを紹介する。

また、理化学研究所のベンチャーであるインテグレーションテクノロジーのセッション「プラントモデリングの実務事例紹介」では、プラントモデリングの適用事例として、自動車の自動変速器やクラッチシステムのパワートレインモデル、電気機器における電磁モーターのコントローラドライバシステムモデルなどを紹介する。

このほか、MathWorksによる「しっくりくる! 『物理モデリングツール』の使い分け方」「HILS実装のためのプラントモデリングツールの活用」「回路シミュレータ/MATLABリンク~詳細回路設計におけるシステムレベル検証」も実施予定だ。

MATLAB EXPO 2017 Japanは、10月31日開催

MATLAB EXPO 2017 Japanの見どころを紹介してきたが、いかがであっただろうか。これまで以上に事例講演が充実した同イベントは、ユーザーにきっと新たな気づきを提供するはずだ。

宅島氏も「今年はあえて入門トラックを用意せず、お客様の現場の課題に近い事例講演を多く設けました。まずはご自身の業務に近い領域のセッションに参加いただき、そこでの気づきをきっかけに、別の講演やブースのデモで知識を深めていってほしいですね」とアピールする。

豊富なユーザー事例で「Autonomous Anything」を実感できるMATLAB EXPO 2017 Japan。ぜひ足を運んでいただきたい。

10月31日に開催される「MATLAB EXPO 2017 Japan」【詳細・申込はこちら】

MATLAB EXPO 2017 Japan_総力特集
1回目:豊富な事例講演で「Autonomous Anything」の気づきを得る - MATLAB EXPO 2017 Japanがいよいよ10月31日に開催!
2回目:ユーザー事例講演が約5割! 10月31日開催の「MATLAB EXPO 2017 Japan」を紐解く(本記事)

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