「ぶつかっても安心」から「ぶつからないクルマ」へ――。いま、コンピューターによる仮想試験や設計(CAE:Computer Aided Engineering)は、車の先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)など、自動運転の領域にも活用されているという。

3月8日に東京・御茶ノ水で開かれた「第3回 自動車技術に関するCAEフォーラム」では、アルテアエンジニアリングのHyperWorksシミュレーション技術部 芝野 真次氏が基調講演者として登壇。自動運転の設計におけるCAEの活用状況について解説した。

今回の基調講演で芝野氏は「より高機能・高度化すると思われる自動運転技術の領域では、これまで以上にCAE技術の活用が不可欠となり、個別にあるCAE技術だけではなく、それらの組み合わせとそのトータルサポートも重要になる」と説明した。本稿では、講演の内容を深掘りし、芝野氏に話を伺った模様を紹介する。

講演では自動運転(ADAS)の検証時に、CAEが果たす役割について解説された

自動運転レベルの定義への疑問

内閣府が発表している「自動運転レベル及びそれを実現する自動走行システム・運転支援システムの定義」(※)には、米国運輸省(道路交通安全局 NHTSA)の定義を踏まえて分類された4つのレベルが記されている。現在はレベル2(システムの複合化)にあたり、「加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態」となっている。その他、レベル1からレベル4までは下記表のとおり定められている。

  • 自動運転レベル及びそれを実現する自動走行システム・運転支援システムの定義
自動化レベル 概要 左記を実現するシステム
レベル1 加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行う状態 ドライバー責任 安全運転支援システム
レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態 ドライバー責任
※監視義務及びいつでも安全運転できる態勢
準自動走行システム 自動走行システム
レベル3 加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが要請したときはドライバーが対応する状態 システム責任(自動走行モード中)
※特定の交通環境下での自動走行(自動走行モード)
※監視義務なし(自動走行モード:システム要請前)
レベル4 加速・操舵・制動を全てドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態 システム責任
※全ての行程での自動走行
完全自動走行システム

ここで注目したいのは、「責任関係等」という注記だ。レベル1・2は「ドライバー責任」、レベル3は「システム責任(自動走行モード中)」、レベル4は「システム責任 ※全ての行程での自動走行」と記されている。「レベル3の領域は危機的状況でのドライバー対応を残しており、自動車メーカーとドライバーの間での責任の所在が不明瞭となるため現実性に乏しい。レベル2の高機能化の次はレベル4になるのではないか」と芝野氏は語る。

個別の性能向上を目指す従来のCAEの限界

また芝野氏は「『ぶつかっても安心なクルマ』から『ぶつからないクルマ』へ、めざす目標が大きく変わってきているなか、従来のように個別機能の性能向上だけに着目したCAEには限界がきています」と言葉を続ける。たとえば、回避する人やモノだけを見て、車内の挙動を無視した急ブレーキが入れば、ドライバーや同乗者がケガする恐れが出る。車そのものの安定性が失われてスピンや横転が発生し、制御不能に陥ることも考えられるだろう。

自動運転の実現に向けては、歩行者や対向車などの回避すべき対象物との距離、相対速度、車両姿勢、荷重、天候、風速、路面状況、さらには内燃機関の化学反応、制御系の熱量や温度、HV・EVの電圧や電流など、リアルタイムに変化するさまざまな事象を車自身が複合的に判断し、自ら実行しなければならない。芝野氏は、運転の完全自動化へ向けた開発では、こうした複合的な事象を仮想空間上で再現するシミュレーションが不可欠だと説明。「膨大で多岐にわたるデータを総合的にシミュレーションするためには、CAEソフトウェアの相互連携機能と制御機能の強化が欠かせない」と力説する。

アルテアエンジニアリング HyperWorksシミュレーション技術部 芝野 真次氏

最適なシミュレーション連携環境とは

米国ミシガン州に本社を置くアルテアエンジニアリングは、1985年に製品設計コンサルティング会社としてわずか数人のスタッフにより創業。「シミュレーションによる変革(Simulation-driven Innovation)」というビジョンのもと、世界20か国、社員2,600名を抱える企業へと拡大し、いまも成長し続けている。

芝野氏によれば、同社の歩みは大きく3つのフェーズに分けられる。創業期はオープンアーキテクチャのプリ・ポストソフトウェアの開発が中心であったが、その後20年以上にわたり解析機能(ソルバー)を拡充させてきた。このソルバー拡充期は2016年にほぼ完成し、現在は連成解析 (Multi-physics Simulation)のフェーズに入ったところだという。現在、同社のHyperWorks製品群は、20を超えるCAEソフトウェアをずらりとラインナップし、それらを相互に連携させた連成解析を順次提供している。

芝野氏は連成解析を行う上で、トータルサポートが重要であると指摘する。各社バラバラに提供されている解析ソフトウェアで連成解析を行う場合、どの解析に問題があるのか分からないことも多いが、HyperWorks製品を使用していれば、シミュレーションに関することはすべてアルテアエンジニアリングがサポートする。「複合的な解析を行う車両開発メーカーは、この環境を利用することで、”どのようにぶつからない車を実現するか”という開発コンセプトに専念できる。”ソフトに危機を回避する”、”機敏・迅速に危機を回避する”といった各社の違いが今後現れてくるのではないか」と語る。

HyperWorksで個性ある「ぶつからないクルマ」を

同社が展開するこのCAEソフトウェアプラットフォームのさらなる強みは、ライセンスシステムにある。競合他社の類似サービスのように、一つひとつのソフトウェアを購入するというライセンス形態ではなく、必要なトークン(HyperWorks Units)数が決まっている個々のソフトウェアを自由に組み合わせて解析機能を利用できる「トークン制」を採用しているのだ。ユーザーがあるソフトウェアを起動させると、そのソフトウェアに定められた必要トークンが、ライセンスサーバーにあるユーザーの持つトークンから引かれる。これによりユーザー所有のトークン数が許す限り、どのソフトウェアでも利用できるというわけだ。

「HyperWorksは、よりよいマルチシミュレーション、マルチフィジックスを求める現場に、最適なシミュレーション連携環境やトータルサポート、ライセンスシステムを統合した自信作です。使ってもらえばそのメリットを実感していただけるはずだと思います」(芝野氏)

このCAEソフトウェアプラットフォームHyperWorksの最新版2017は、モデルベース開発や電磁界解析・設計、材料モデリング製造シミュレーション機能を追加したほか、使いやすさ、効率的なモデル管理といった機能を強化。最新の計算環境に対応した高速化・スケーラビリティ改善も実現している。

「車をぶつけて実験していた時代にコンピューター解析ソフトが登場し、検証の方法を変えたように、HyperWorksにより、より安全でぶつからない各社の個性を持ったクルマが実現するんじゃないかと考えています」(芝野氏)

スバル「インプレッサ」開発におけるHyperWorks 活用事例もチェック

アルテアエンジニアリングのHyperWorksは、スバル「インプレッサ」のフルモデルチェンジにも活かされている。富士重工業は、新型インプレッサ開発にHyperWorksによる構造最適化を実施し、高い次元の軽量化・静音化・高燃費化を実現させた。同事例の詳細については下記記事で紹介しているので、合わせてご確認いただきたい。

【特別企画】スバルがインプレッサ開発に活用した「構造最適化」 - その技術を聞いた

(※)出展:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画」

(マイナビニュース広告企画:提供 アルテアエンジニアリング)

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