前回の続き。

あれほど夜を愛し、夜の創作をむさぼった日々。ところが、ある日とつぜん、朝型に! それが8年も続いている。

朝、目覚めて、コーヒーの準備をしながらベランダに出てみる。気温は寒い。日差しが眩しい。風はないので、日差しの中へ入れば、やがてぽかぽかと暖かくなる。コーヒーの香り、鳥の声、今日も平凡な日常の喜びに感謝すれば、生活の気力がむくむくと起ち上がる。あ~なんかオレ、変わっちまったなあ~。はやくも老後の世界がやってきてしまったのか……。

いつも朝は、同じ時間にそうしてる。何が起こるわけじゃないけれど、いつもベランダに出て、そのようにしていると、定点カメラのように回りが変化しているのがよくわかる。昔より時の流れが早く感じるようになったから、なおさら日々の変化はめまぐるしく、微微妙な変化にもよく気づくようになる。昨日まで何もなかった枝にたくさんの蕾がついていたりする。香りだって毎朝違う。

そこでハッとする。

さっきから自分は何もしないでじっとしている。

その場で、頭の中ではいろいろめぐっていても、身体がその場でじっとしている。昔、こんなに一箇所でじっとできただろうか……。

昔、公園のベンチでじっとしている老人を見て、思っていた。

「なんで何もしてないんだろう」

じっとするのは苦痛だった。多動気味の子供だったかもしれない。教室でじっと机に座っていると発狂しそうになる。教師のリアルな肖像画でもノートに描くしかない! 部屋で何もしないでボーッとしていると、忙しく過ごしているよりも疲れた。その場でじっとなんかできない。

そうか、自分は変わったんだ。

昔と何が違うのか、それは時間感覚。ゆっくりとだから気づかなかったけど、昔とは違う時間感覚の暮らしに突入した。

それは夜と朝ということだけではなく、今までとは違う時間世界。まわりはめまぐるしく変化するのに、自分はゆっくり。それは、草木や、自然のスピードに近づいてゆく時間感覚なのかな。そうか! だから僕は近年、サウナのことに気づいたり、水草に気づいたりしたのも、その場にじっとすることができるようになったからなんだ。今までじれったくて見えなかった世界が見えてきた。そういうことか~! これは楽しくなってきた! その場でじっとできる者だけが愉しめる娯楽はまだまだ未開発だったぞ!

創作は、少し病んだような危ういものが作品に深みを与えるように思う。ある種、不健康が作品を生む的なことはあるだろう。では、こんな朝型健康体ではどうだろう、クリエイティブは昼間のような元気でアッケラカンとした軽薄なものに変わってゆくのだろうか。 だけどもう引き返せない。夜は眠い! 起きれない、起きたくない! 朝のクリエイティブ、この明るい世界で表現はどのように変わっていくんだろう。今は、冒険家のような気分で見てやろうと思っている。

ただ、夜型から、朝型になりました。という話でした。

タナカカツキ


1966年、大阪府出身。18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。音楽アーティストのアートディレクションも多数手掛ける。