日々のクリエイションにとって、夜な夜な親しい友人たちとのおしゃべりは、これは欠かせないものですね。一見無駄なおしゃべりに創作の種がたくさん植わっています。NHKの『ゲゲゲの女房』を観てた人は憶えてると思いますが、茂の仕事場に「無為に過ごす」という言葉の張り紙がありましたね。これはいい言葉ですね、人はなかなか無為に過ごすことはできないです、どうしても溜まった仕事、雑務、携帯でつぶやいたり、いろいろしちゃいますからね。無駄な時間を過ごす。この贅沢な時間こそが創作の神との交信の時間ですよ。

京都の大学に進学した頃、下宿生活がはじまってまず問題になったのが隣人の騒音問題。隣人がうるさいんじゃなくて、自分がうるさい。ギターは弾くし、歌うし、夜な夜な友人と朝までおしゃべり、音楽流しっぱなし、テレビもつけっぱなし、さぞうるさかっただろう。隣人も黙っちゃいない。「ドンドン!」と壁を叩いて苦情。反省して、しばらくは静かにしゃべってるけど、また盛り上がってきたら壁から「ドンドン!」の繰り返し。それが数カ月続いて、相手が引っ越す。住んでる間、同じ階の隣人が、僕のせいでふたりも引っ越した。引越してくれてありがとう! ほんとに申し訳ないことをしました。でも、当時18歳、絵や音楽やカルチャー、楽しいことふざけるのが大好きな美大生に静かに暮らすのは無理です。かといって防音設備のある部屋に越すのもムリです(当時家賃1カ月1万5,000円/京都左京区)! いや、静かに暮らすのも好きなんですよ、ひとり静かに、虫の声なんか聞きながら本読んだりするの、でも友人が遊びにきちゃったら無理です。近所のファミレスに移動して、なんてのも無理です。ファミレスじゃギター弾けないし、そもそも住んでた町は田畑の多い田舎の住宅街でファミレスなかったです。

上京してからも隣人騒音問題はありました。こちら夜型、作業もおしゃべりも夜、盛り上がってきたら、ギターじゃら~~ん! 壁がドンドン! バーーーん! 蹴り? 隣の人の洗濯物には極真空手の道着が干してあったので、今度はこちらが引越しました。防音、鉄骨鉄筋コンクリート造の部屋に越せたのはそれから8年目。長かったー。

人に迷惑をかけるのはいけないことです。ただ、それで夜、部屋で音を出せないのは本当に困る、なんとなく歌ったり、楽器を弾いたり、大声で笑ったりしたい。そこからいろんなものが生まれる、いや、それ以上に人間として自分の住んでる部屋で音を気にしながら生活しなきゃいけないのは悲しすぎる。夜な夜な音を気にせず出せる環境をなんとか作り守りたい。当時のぼくから出た騒音は、隣人には申し訳なかったが、今日の創作活動の糧、肥やしになってる。苦情に従いおとなしく引き下がっていたならば、自分の創造におけるネタやアイデアはとっくに枯渇していただろう。

でも今思えば、迷惑にならぬよう壁や天井にできるだけ防音になるような工夫、DIYすればよかったと思ってます(笑)。

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タナカカツキ


1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。