ソフトバンクが米国のモバイル端末卸売り大手Brightstarの買収を視野にいれた株式取得に乗り出したと報じられ、同社はすぐに「協議中であり、現時点で決定した事実はない」という声明を発表した。

日本ではBrightstarという名前を「聞いたことない」という人がほとんどだと思う。米国でも一般的に知られている会社ではない。だが、モバイルデバイス市場が新興市場へと広がり、廉価版のiPhoneの登場が大きな話題になる昨今、携帯業界でBrightstarを知らない人はいない。Sprintを買収したソフトバンクは気にとめなくても、Brightstarをターゲットにしたソフトバンクに興味を持つ人は多いと思う。

Brightstarがどのような会社かというと、Webサイトには以下のようなサービスがリストされている。

  • 付加価値流通
  • 供給チェーンソルーション
  • 端末保護&保険
  • 買い戻し&下取り
  • 複数チャネルの小売りソリューション

端末メーカーのパートナーは、Apple、RIM、Nokia、HP、ソニー、LG、Motorola、Samsung、HTC、ZTEなど100社以上。通信キャリアのパートナーも200社を超える。グローバル規模で携帯端末を流通させるための様々なソリューションを提供しているが、その可能性がもっとも分かりやすい形で現れているのはAppleとのパートナーシップだ。

Apple直営店のiPhone下取りを実現

この夏、Appleは米国の直営店でiPhoneの下取りサービスを開始した。2年縛りのような通信キャリアとの契約下にない正常に動作するiPhoneが対象で、かつその場で新しいiPhoneの契約を結ばなければならない。ちょっと条件が細かいが、これは下取りというよりも、新しいiPhoneへの買い換えを促すプログラムと言える。Apple Storeでサービスを受けた時に、顧客のアカウントをチェックしたストアスタッフが、下取りを活用して新機種に変更できることをおすすめしてくれる。

家族のiPhoneを買い換えた時に、この下取りを利用してみたのだが、快適なサービスだった。Apple Storeで下取りしてもらうメリットはサービスと安心感だ。査定は明快。Appleが提供する下取りサービスだから後々トラブルが起こる心配はない。顧客の目の前できっちりとデータを消去してくれるし、その場で新しいiPhoneへの移行もサポートしてくれる。Appleの利用体験が感じられる。その分、下取り価格が不利になるかと思ったが、Gazelle、NextWorthなど下取り専門業者と十分に競争できる金額だった。これならApple StoreでiPhoneを購入し、2年縛りが切れたらApple Storeで下取りに出して、また購入するというサイクルでiPhoneを使い続けるユーザーが増えそうだ。

スタンフォードショッピングセンターに新装オープンしたApple Store。Appleはこの夏から、直営店でのiPhone販売強化に努めている

下取りに出したiPhoneがどうなるかというと、再整備されて、新興国の中古市場などに出荷される。そんなことにまでAppleはiPhone事業を広げている……のではない。Appleの直営店は下取りを受け付ける窓口であり、iPhoneの再生備と流通を実際に担っているのが、今回ソフトバンクの買収ターゲットとして報道されたBrightstarだ。ちなみに米国でAppleはWebサイトでも下取りプログラムを提供しており、そちらはPowerOnという会社が実際の下取り業務を担っている。

米国のようなスマートフォン市場が成熟した地域では、最新機種への買い換えを促すことが課題になりつつある。日進月歩のモバイルWebで、ユーザーが数年前の端末を使い続けたら、新しいサービスがアーリーアダプターからマスへと広がるスピードが停滞してしまう。成熟市場で下取りや買い戻しサービスが拡充し、機種変更が活発になれば、性能が高く、まだまだ新しい製品が中古市場に流れてくる。

AppleがiPhone 5s/5cを発表する前に、廉価版のiPhoneの登場が大きな話題になったが、ふたを開けてみればiPhone 5sが上位モデル、5cが標準モデルというような位置づけだった。Appleはブランドを重んじ、ただ安くするだけの価格競争に身を投じない。しかしながら、低価格のスマートフォンが求められているのも事実だ。その需要をリサイクルプログラムで埋められれば、同社は製品哲学を崩すことなく、廉価帯にもiPhoneを広げられる。グローバル規模のモバイルデバイスの流通ソリューションを提供するBrightstarは、低価格スマートフォンの問題に直面するAppleがiPhone市場をグローバルに広げるための重要なパートナーである。

Appleが"iPhoneであること"にこだわるから全てのiPhoneユーザーがiPhoneを活用できるように、低価格スマートフォンもスマートフォンとして十分に機能する端末でなければ、インターネットの可能性を余さずに世界中に広げることにはならない。新興国市場や発展途上国で誰もが購入できる価格を実現するために、スマートフォンとしての機能や性能が犠牲になっては意味が無い。リサイクルプログラムを活かしてグローバル規模で端末を回していくのは、成熟市場の消費者を刺激し、人々の生活を変えられるスマートフォンを新興国市場や発展途上国にも速やかに行き渡らせる効果的なソリューションになる。ソフトバンクがBrightstarの株式取得に乗り出したのは、同社がグローバルな視点を持っていることをアピールするものになった。