筆者はEvernoteの有料サービスメンバーだ。それはEvernoteのビジネスモデルの見通しが良く、また同社CEOのフィル・リービン氏が「100年企業を目指す」と公言しているからだ。Flickrも有料契約者によって独り立ちしているから契約しているし、同様の理由でオンラインブックマークサービスにはPinboardを使っている。
Dropboxも、それなりに信頼している。"それなり"なのは、同社の場合、ビジネスモデルがまだまだ不透明だからだ。フリーミアムモデルとして無料利用者の割合が高すぎる(2011年末時点で96%)。ただ、共同創設者ドリュー・ヒューストン氏の起業家としての心意気を買っている。スティーブ・ジョブズ氏がヒューストン氏に興味を持ってDropboxの買収に乗り出した時に、「一企業として拡大を目指す」と述べて買収提案を一蹴した (ちなみにジョブズ氏はヒューストン氏にとってヒーロー的な存在だった)。
逆に、便利で有望そうなWebスタートアップであっても、ビジネスモデルやビジネスプランがはっきりしないものには深入りしていない。それが無料のWebサービスであればなおさらだ。Pinboard創設者のマシエ・セグロウスキ氏が指摘するように、無料のWebサービスはユーザーが増えるほどに損失が膨らむ。ベンチャー頼みではなく、サービスから収入を生み出せるようにならなければ、いずれ立ち行かなくなって消えてしまう。もしくは巨大な広告媒体に飲み込まれる。
利用規約変更でFacebook化、Instagramに逆風
前者だと、ある日突然サービスを利用できなくなる。では、後者の場合はどうなるのか? その典型的な例が、いま大騒動となっているInstagramの利用規約変更だ。
Facebookに買収された写真サービスのInstagramが17日(米国時間)に、同社のサービスにおける利用規約とプライバシーポリシーの変更(2013年1月16日に発効)を発表した。
変更のポイントは、Facebookとデータを共有できるようにし、Facebookの一部としてInstagramをスムースに機能させることだ。Instagramは「これ(新しいプライバシーポリシーの導入)によって、スパム対策のようなことをより効果的に行えるようになり、システムや安定性に関わる問題を素早く発見し、またInstagramがどのように使われているかを理解することでより良い機能を実装できるようになる」と説明している。
ところが、Facebook化された新しい利用規約とプライバシーポリシーに対して「ユーザーデータを広告に利用する」という懸念が広がっている。例えば、利用規約の以下の部分だ。
Some or all of the Service may be supported by advertising revenue. To help us deliver interesting paid or sponsored content or promotions, you agree that a business or other entity may pay us to display your username, likeness, photos (along with any associated metadata), and/or actions you take, in connection with paid or sponsored content or promotions, without any compensation to you.
広告収入で成り立つサービスにおいて効果的にペイドコンテンツまたはプロモーションを提供するために、ユーザーネーム、ライク、メタデータを含む写真をサードパーティと共有する。メタデータの詳細には触れていないが、位置や使用しているカメラなどの情報をマーケティングに役立てるのだろう。
New York TimesはテクノロジーブログBitsの「What Instagram’s New Terms of Service Mean for You」という記事は、新しい利用規約の問題点として以下の5つを挙げている。
InstagramはFacebookおよび外部のアフィリエートや広告主とユーザーに関する情報を共有する。
知らないところで、あなたが広告のスターになっているかもしれない。
未成年も除外されない。
広告に広告と表示されない可能性。
オプトアウトする方法はアカウント削除のみ。
Instagramに対する逆風は強い。PC Magazineは「FacebookがInstagramを台無しに (Facebook Is Killing Instagram)」というタイトルの記事を掲載。WIREDは「Instagramから自分の写真をダウンロードして、アカウントを削除する方法」という情報記事を公開した。
一方でGizmodoのように「何も知らない赤ん坊じゃないんだから、Instagram上の個人データについてぶつぶつ不満を言うな」という意見も見られる。Webサービスを改善するためのユーザーデータの活用を認めるのは、今やネットユーザーの常識という見方だ。
Instagramの新しいプライバシーポリシーと利用規約は「悪いようにしないから、われわれに任せて」と言っているようなものである。同様の利用規約を示している例は他にもあるが、小さなスタートアップではなく、インターネットの主導権を握る企業のひとつであり、報道機関や投資家、多数のユーザーの目に常にさらされるFacebookなのだから信頼に足る……と判断するかは人それぞれだ。
Facebookとの組み合わせによって、Instagramがよりすばらしいものになるかもしれない。ただ個人的な感想を述べると、利用規約に同意してもサービスへの深入りはためらわれる。もしくは逆に、Facebook+Instagramに集まるデータを活用できるように使いたいと思ってしまう。
Dropboxのヒューストン氏とジョブズ氏がミーティングした時に、買収交渉が物別れに終わってから、ジョブズ氏はAppleがDropboxの市場(=クラウド市場)に参入する意向を示し、さらに当時のDropboxを「機能であって、製品ではない」と指摘したという。
その時にジョブズ氏は微笑んでいたというから、起業の先輩として、独り立ちを目指すヒューストン氏にアドバイスしたのだろう。Dropboxが他の企業のOSに依存した機能であり続ける限り、それだけを糧に独立した企業として長期的に生き残るのは難しい。
"製品"が生き残りのキーワードであり、Facebookに組み込まれたInstagramをジョブズ氏のように表現すれば、「ユーザーが製品 (You are the product)」になる。