「カビないポテト」はどうやって作られるのか

前回、インターネット上で見かけるトピック「ファストフードのカビないポテト」の都市伝説に関してご紹介しました。アメリカで情報開示されている、「カビないポテト」に用いられているという揚げ油の成分を見ていったところ、一見すると問題のある成分は見つからなかったという話でしたね。

では、「カビないポテト」の秘密は一体どこにあるのでしょうか。揚げ油にあるのでしょうか? それともじゃがいも自体が腐らない新品種なのでしょうか? 今回はその"トリック"をお教えします。

ポテトを作る工程がカビを寄せ付けなくする

その答えは、実は簡単なものです。

もったいぶらずに言ってしまいますと、フライを揚げる環境が、カビの生育環境に対して強い抑制効果を持っているということなのです。特別な添加物がカビを抑制しているとか、ものすごく強力な防腐剤が微生物を寄せ付けないというわけではなく、どちらかというとその商品としての性質が理由といえます。

分かりにくいので、順を追って説明していきましょう。

まず揚げ油は、植物油と水素添加油の半々です。水素添加油とは、ショートニングやマーガリンと同じようなもので、その安全性についてなどは過去の連載でお話した通りです。

この植物油と水素添加油を用いた油は、牛脂やラードのように硬いという特徴があります。ポテトが揚げたての状態では大変口当たりがよくおいしく感じますが、ポテトが冷えると急激においしくなくなる性質があります。この硬い油が表面で冷え固まって、一種の遮断層のような形でポテトをコーティングします。

また、カビが生えるには水がないといけないのですが、この層の上にさらに塩が振られます。揚げ油の熱によってカビなどの微生物は死滅しますし、塩があることでカビや細菌が嫌がる環境ができあがっていきます。さらに酸化防止剤がこの油の分解を阻害し続けるため、「バリアー効果」が長く続きます。そのうち、中の水分がゆっくりと抜けていくことで、カビにとってさらにつらい環境になります。そのため、カビが生えないのです。

植物油のみで揚げたポテトは、中の水分が外に出てきてベショっとするため、そこを足がかりしてにカビが生えることができるのです。

水素添加油を用いたポテトのカロリーは……

「良い」「悪い」の二元論で物事を語ることはよくないことですが、あえて言うのであれば、この「カビないポテト」はよい食品とは言えません。

カビが生えていようがいまいが、そもそも加工する工程で、じゃがいもの持ち味である豊富なビタミン類の大半は溶出してなくなっています。2度揚げられるため、含まれる脂肪の量は膨大で、特に先述の水素添加油を使ったものは、ポテトMサイズで牛丼1杯に相当するカロリーです。しかも、牛丼に比べて栄養価は低いです。水素添加油は、ニキビや吹き出物の原因になる原因の油でもあります。

そして、強い塩味とグルタミン酸などのうま味調味料によって「作られた味」は、特に味覚が未発達な子供や未成年には味覚障害を引き起こしてしまいがちです。

もちろん1回食べただけで有害作用なんてありませんし、嗜好(しこう)品として「分かった上」で楽しむことはよいです。それでも、食事として置き換えるのはとても賢明とは言えないことがおわかりになるのではないでしょうか。

写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール: くられ

シリーズ累計15万部以上の『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス)の著者で、近著に発売3カ月で売り上げ6万部を突破した『薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 よく効く! 得する! 市販薬早わかりガイド』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。本連載に加え、食品関連の話題をギュっと詰め込んだ新作「本当にコワい? 食べものの正体 」(すばる舎)を10月15日に上梓。無料のメールマガジン「アリエナイ科学メルマ」も配信しており、好評を博している。