射出成形に関わりはじめると、金型の 「固定側(Aサイド)」、「可動側(Bサイド)」について常に議論されていることに気付かれることと思います。パーツを成形するために金型を製作しますが、パーツの表面を形成するのが金型の固定側と可動側の役割です。ところが、射出成形では「固定側」「可動側」は最も基本的なコンセプトであるということもあってか、きちんと説明されていることが少ないように思われます。パーツの面について、どちらを固定側、どちらを可動側で成形するかを判断するにあたっては、複雑に交錯する要素や因果関係を考慮する必要があります。パーツの設計を開始する段階で、可動側と固定側どちらで、どの面を形成させるかの判断ができていると、設計から製造への展開が円滑に進められます。

射出成形金型の固定側と可動側に関する制約や特性を見ていくと、二つの特性に起因することが見えてきます。第一は、溶融した樹脂が冷却するにしたがって収縮するという物理的な特性です。第二は、射出成形機自体の特性です。たいていの射出成形機は、溶融した樹脂を固定側に射出します。パーツを押し出すエジェクションは通常、可動側の役割になります。図1では、成形機の射出ユニットは左側にあり、エジェクションシステムを組み込んだ、クランプユニットが右側にあります。

図1:射出成形機を構成するコンポーネント(出展: Image created by Brendan Rockey, University of Alberta Industrial Design)

パーツのどちら側を固定側にするか、可動側にするかを決める際の判断基準はエジェクションになります。成形が完了して金型が開くと、パーツが出てきて次の成形がはじまる、という繰り返しになると考えられがちですが、実際にはそうなりません。樹脂は冷却するにしたがって収縮しますが、その際に金型の凸形状の部分にきつく付着するようにして収縮するからです。そして、いくつかの例外的な形状を除いて、パーツは金型の両側に付着した状態になります。もちろん、射出成形機はこのことを念頭に造られていますし、かなり大きな力で金型を開いてパーツが出てくるようになっています。 パーツは通常凸形状面の多い側の金型に残りますが、それが可動側であれば、問題ありません。エジェクトシステムが可動側からパーツを押し出して、次のパーツを成形するプロセスに入ります。ところが、固定側にパーツが貼り付いてしまうと、金型技術者が金型を傷めずにパーツを取り外すまで、成形作業はすべて停止してしまいます。

パーツがリブ、ボス、コア、貫通穴などさまざまなフィーチャで構成された複雑なものになると、樹脂が金型の両側に付着する傾向はさらに強まります。場合によっては、固定側と可動側を決めるために、ソフトウェアによる解析に加えて、金型技術者の経験と知識に基づく判断が必要になることもあります。また、金型の設計や成形のプロセスを調整して、可動側にパーツが付着するようにさせる必要があることもあります。

金型の固定側・可動側どちらにパーツ面を配置させるかによって成形品の外観への影響が違ってきます。

ゲートの種類によっては、固定側の面に痕跡が残り、ホットチップゲートでは特に痕跡が見え易いということがあります。固定側では一般的に、ケースや筺体のような形状の外装や意匠面を形成させることが多いので、ゲート痕が見えてしまうことは望ましくありません。ただ、このゲート痕は予想できるので、カモフラージュしたり、デカールなどを貼ってカバーするなどの対策が取れます。

可動側の面には、たいていエジェクタピンの痕跡が残りますが、通常は特に問題はありません。それは、可動側では通常、パーツの裏側など隠れた部分を形成するからです。ただし、例外もあります。例えば、トレイのように、くぼんだ内側の部分がオモテ面になるようなモノが挙げられます。このような場合も痕跡が残ることが予想できますので、カモフラージュ対策を計画しておくことで克服できます。

双方向対話型の無料見積り「ProtoQuote(R)」では、設計を解析した結果と、固定側・可動側をどのように割り当てるかの提案を図解します。図では、固定側で形成する面は緑色、可動側で形成する面は青で表示します。また、サイドアクションで形成する面がある場合には、その部分はピンクで表示されます。Protomold射出成形サービスをご発注いただく際には、上述の固定側・可動側の割り当てとともに、ゲートの位置やエジェクタピンの位置を、ご承認いただくという流れになります。

パーツを固定側・可動側どちらに配置するかについてはある程度の自由度があり、シンプルな設計変更で配置を変えることができます。固定側、可動側の選択について不明な点、あるいはパーツの設計に関するご質問は、気軽にお問い合わせください。

ご参考:

プロトラブズ樹脂部品設計ガイド
ProtoQuote®無料解析&見積り

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。