【コラム】
カメラ付き携帯電話の登場で「写真を撮る」という行為が当たり前になり、インターネットの普及で情報が氾濫し始めると、カメラ雑誌は保守的な方向に向くようになる。最近のカメラ雑誌はつまらなくなってしまった飯沢はいう。今回は写真の熱かった60-70年代に若手写真家を世の中に紹介し、新しい写真表現を追究したカメラ雑誌『カメラ毎日』と、その編集者である山岸章二氏について解説する。(文中敬称略)
だいたい一般大衆向けのカメラ雑誌が刊行されるのは、大正の終わりぐらいからなんだ。明治時代にも、カメラメーカーや写真メーカーからユーザーに向けに出版した雑誌はあったんだけど、明治時代では医者や大学教授といった一部の上流階級しかカメラを持つことはできなかった。しかし、大正時代になると一般の人にまでカメラが普及してカメラブームが起きる。はじめて大衆向けに出版されたカメラ雑誌は、1921年にアルスから創刊された『カメラ』だね。『カメラ』の編集長だった高桑勝雄は、(1)巻頭のグラビア、(2)メカニズムの記事、(3)月例コンテストという、カメラ雑誌の三本柱を作った。これは今のカメラ雑誌でも変わらず踏襲されていて、その基本要素は大正時代から現在まで変わってない。
その後、『アサヒカメラ』や『フォトタイムス』、『カメラアート』、などのいくつかの雑誌が出版される。おそらく一番レベルが高かったのは、野島康三、中山岩太、木村伊兵衛を同人として(2号から伊奈信男が加わる)、1932年に創刊された『光画』だと思う。東京都写真美術館で開催された「甦る中山岩太--モダニズムの光と影」展(2008年12月13日-2009年2月8日)には『光画』に掲載された中山岩太の作品がたくさん出品されていたけど、それだけ見ても戦前の写真家たちの高度な表現力がよくわかる。だけど中国大陸で戦争が始まり、1941年に雑誌統合というのがあって、カメラ雑誌が統合や廃刊により3誌にまで減ってしまうんだ。もちろん戦争のせいでアマチュア写真家は趣味で写真をやるという状況ではなくなり、カメラ雑誌が成り立たなくなったという原因もある。『カメラ』や『アサヒカメラ』なども休刊してしまい、カメラ雑誌の勢いが復活するのは戦後になってからになる。
戦争が終ると、多くのカメラ雑誌が復刊しはじめ、『カメラ』は1946年、『アサヒカメラ』は49年に復刊する。1950年代になると、日本もかなり復興してきて経済状態もだいぶ良くなってきた。そうなると再びカメラブームが起こるんだけど、それは戦前のカメラブームに比べるとひとまわりも大きいものだった。キヤノンやニコンなどの日本のカメラメーカーがドイツのカメラに匹敵するというか、それを超えるようなカメラをより安い価格で売り出せるようになったことが一因だろうね。一家にカメラ一台という状況がこの時代にやって来る。そのような状況でアマチュアカメラマンも増加し、自分たちもなにかを表現したいという気持ちが高まっていったんだね。アマチュアのカメラ愛好家の人口は200万-300万人まで増え、カメラ雑誌の需要が増えて次々と復刊、創刊された。カメラ雑誌の全盛期は50年代から60年代にかけて。10誌以上発行されて、カメラ雑誌全体で100万部くらい発行されていた。いまではとても考えられない数字だね。
そんな中、1954年4月に毎日新聞社から『カメラ毎日』が創刊された。毎日新聞社の招待でロバート・キャパが来日し、『カメラ毎日』の創刊号はロバート・キャパを大きく特集した。その後もキャパや写真家集団マグナムなど、新聞社らしく報道写真を中心に特集していた。キャパが日本で撮影した写真も掲載されているよ。初期の『カメラ毎日』は、報道写真を中心に、アマチュアカメラマンの写真も掲載する硬派な雑誌だった。しかし、その方向性は山岸章二という1人の編集者によって大きく変わる。紙面は新しい写真表現を追究する写真家の発表の場として機能し、新しい写真家たちを多く排出していくことになる。次回は、山岸章二の登場について解説していこう。
飯沢耕太郎(いいざわこうたろう)
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写真評論家。日本大学芸術学部写真学科卒業、筑波大学大学院芸術学研究科博士課程 修了。
『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書)でサントリー学芸賞、『「芸術写真」とその時代』(筑摩書房)で日本写真協会年度賞受賞。『写真を愉しむ』(岩波新書)、『都市の視線 増補』(平凡社)、『眼から眼へ』(みすず書房)、『世界のキノコ切手』(プチグラパブリッシング)など著書多数。「キヤノン写真新世紀」などの公募展の審査員や、学校講師、写真展の企画など多方面で活躍している。
まとめ:加藤真貴子 (WINDY Co.)
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