私自身がこれまでに何度か転職を経験したことがある。運良く、これまで転職先にも、そこで出会った方々にも恵まれてきた。そのせいか、よく同輩や後輩らに「転職を決断するタイミング」について相談を受けることがある。

「背中を押してもらいたい」気持ちに待ったをかける

もっとも、相談を受ける機会が増えると、その傾向も分かってくる。「転職のタイミング」を相談をされる場合には、大きく3つある。

(1) 入社後(あるいは転職後)まだ間もないタイミング
(2) 入社後(あるいは転職後)3年程経過して、順調にキャリアを積んだタイミング
(3) 入社後(あるいは転職後)5年以上が経過して、「今のままではいけない」と思ったタイミング

わざわざ社外の私に転職(しかもタイミング)を相談するからには、本人は間違いなく、すでに転職する気持ちが強いことが多い。半分以上、答えは出ているものと思って、私は話を聞くようにしている。そして、いつも私は意外な答えをして相談した相手を驚かせることになる。

上記の(1)(2)(3)のいずれの場合も、「転職を考え直すように」と、まずアドバイスするのだ。

(1)の場合は「まだ会社に入ったばかりで、会社のこととかよく分かってないんじゃない?」「あまり短期間に転職を繰り返すと、そういう人だと思われるよ」などと言う。

(2)の場合は「せっかく実績を残したのだから、もう少し残ってみればいいのに」「そもそも何か辞めたい積極的な理由でもあるの?」などと言う。

(3)の場合は「ネガティブな理由で転職をするのって、あまり良くないよ」などという。

どれももっとも(というか、誰でも答えられる一般的な意見)なのだが、私に相談した人の方は、私が何度か転職を経験しているので「背中を押してもらいたい」と、どこか心で思っているから私に相談してくるので、私がもっともらしいことを言って転職を思いとどまるようにアドバイスすると、大抵は怪訝な顔をされる。

では、私はなぜ、あえて「転職のタイミング」を思いとどめるようなことを言うのか!?

それは、「転職」はその人が思っているよりも大変だからである。「転職しないで済むならしない方がいい」と、私が本当に思っているからだ。

転職したら「シングルヒット」ではすまされない

大企業では終身雇用が一般的だった時代とは異なり、今では転職自体は珍しいことではないが、転職すれば、今まで以上に「即戦力」として結果を求められる。今までは、ある程度、中長期的にコツコツと「シングルヒット」を打ち続けて、実績を積み上げていけば評価されたかもしれない。しかし転職先では最初から「悪くても二塁打」を求められることもある。「シングルヒット」では誰も褒めてくれない。

「転職先を探して転職すること」自体は、今では難しいことではない。しかし、転職後に転職先でそれなりの実績を残すことは、また別の問題である。まして異業種や職種が異なれば、その分、新しく身につけなくてはならないことなど苦労も増える。

などなど…思い当たるネガティブなことを、ツラツラと話す。

もっとも、この程度の私の「引き留め」で、考えが変わって、「やっぱり今は転職をやめよう」と思い直したならばそれが本人にとってもいいと思う。きっと本人も、それほどの覚悟がなかったのかもしれない。

一方で、これだけ転職について「ネガティブ」なことを言われても、「それでも転職するなら今だ!」と決意するなら、それはそれで本人にとって良いと思う。きっと本人の心は私の意見に関わらずすでに決まっていたのだ。

ところで、私が予想外に転職を思いとどめるようにと話すので、何度か、「何でそのタイミングで転職を決意したんですか?」と逆に私の転職を決意したタイミングについて尋ねられたとがある。 

私は、「そのタイミングで転職すれば絶対にうまくいくと思ったから」「二塁打を打ち続ける自信があったから」と答える。転職は結婚と同じだと思っている。「運」と「自信」と「覚悟」。(本当にそろっているかどうかはともかく)この3つがそろっていると思った時こそが、ベストなタイミングだと思っている。

※写真は本文とは関係ありません


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。