本連載の第7回では、ユーザーの「ネットでの実名公開に対する抵抗」について触れました。今回はさらに調査対象を「主婦」に絞って実施した調査をもとに「オンラインコミュニティにおける主婦の個人情報に対する意識」について考察してみたいと思います。以下は、主婦のモバイルSNSサイト「ママイコ」と当研究所が2011年2月9日~27日の期間で実施した共同調査の結果です。

ネット上での実名公開に主婦の8割以上が「抵抗がある」と回答

この調査結果に対するソーシャルメディアでのユーザーの反応は、「やっぱりそうか」という主旨のコメントがほとんどでしたが、おおかたの予想通り、約8割の主婦が「実名公開に抵抗がある」という結果が得られました。

この調査は、前提として「モバイルSNSを現在進行形で利用している主婦」を対象として行ったものです。仮に調査対象を、「モバイルSNSを利用していない(アンチSNS派)の主婦層」まで広げてリサーチすると、これ以上の割合になることは想像に難くありません。

また、この結果を年代別に見た場合、年齢層が高くなるほど「抵抗がある」と回答する割合が高くなるという傾向が見られます。これも、おそらく本稿の読者のみなさんにとっては想定の範囲内ではないでしょうか。

主婦の8割以上がネット上での実名公開に「抵抗がある」と回答 (MMD研究所調べ)

同様に「オンラインコミュニティでの顔写真の公開」について調査した結果は以下の通りです。やはり、傾向としては大筋で「実名公開」に近い結果となりました。

「顔写真の公開」についても、ほぼ同じ結果に (MMD研究所調べ)

位置情報(GPS)の送信にも7割以上が「No」?

筆者が少し違和感を感じたのは、次の「位置情報(GPS)の送信」に関する調査結果です。

仮に上記の調査結果で回答したような7~8割の主婦が「実名」も「顔写真」も公開していなかった場合、SNSコンテンツ内で位置情報を送信することにさほど大きなリスクがあるとは思えません。しかし、結果としては74.6%の主婦が「抵抗がある」と回答しています。筆者にとっては予想を上回る数値でした。

これらがもし仮に、実名や顔写真を公開することでもたらされるリスクに対して彼女たちが正確な知識や情報を持っているのではなく、「漠然と公開に対して危険を感じている」という結果の現れだとするならば、日本のオンラインコミュニティの将来にとって憂慮すべきことなのではないかと筆者は考えています。

「実名」「顔写真」を非公開にしといて、位置情報の提供まで"抵抗"する!? (MMD研究所調べ)

マスメディアの偏向報道とコミュニティのガラパゴス化

ちょうど今、様々なメディアで大学入試での不正問題に関するニュースが取り沙汰されていますが、不正を行った張本人はさておき、多くのメディアは、対策ができていなかった大学の体制よりも、むしろ「最新の携帯電話(スマートフォン)を使うとこんな不正ができてしまう」という的はずれな論調に終始しているように見受けられます。

同様にオンラインコミュニティに関する報道の際も、そこで享受できるメリットに関するポジティブな報道に触れる機会はほとんどなく、ただ漠然と不安を煽るネガティブな内容のニュースが多くなる傾向にあります。

もし仮に、そのようなマスメディアの報道に触れたネットユーザーたちが、漠然とした不安にかられ、正確な知識を持たないまま匿名でオンラインコミュニティを利用し続けたとしたら、せっかくグローバルに開かれたインターネットの世界の中で、日本のオンラインコミュニティだけがいびつなカルチャーのままガラパゴス化していくように思えてなりません。

今回の調査では、オンラインコミュニティに対する以下のような声(自由回答)も多数寄せられています。

「音信不通だった子がママになってて子供も友達になれた」
「同年代のママ友には相談できないことを先輩ママに相談できる」
「何年ぶりかに会えてお互いママなったからこども同士も一緒に遊べた」
「今までよりさらに深く付き合うことができ、友達の輪・世界が広がった」
「再会の輪が、消滅していた同窓会にまで広がった」

実名、匿名の是非については、個人の価値観によるものなので「こうあるべき」という意見は筆者にはありません。ただ、FacebookやTwitterの流行に乗ってオンラインコミュニティが急速に拡大しつつある今(筆者はこの流れが止まるとは思えません)、コミュニティ運営者を含むメディア企業には、利用者に対してメリットもリスク対策も含めた"正しい情報"を提供すべきではないかと思います。

多くの企業がグローバル戦略を展開し、"ネットネイティブ世代"がどんどんビジネス社会に流入しているいま、"ネットをよりよく生かす"ために有意義なオンラインコミュニティのあり方を模索する姿勢が求められているのではないでしょうか。

調査テーマに関するご要望については、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは以下のMMD研究所Webサイトで公開しています。 インターネット上での個人情報公開に関する主婦の意識調査 - MMD研究所

<本稿執筆担当: 田川悟郎>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。