前回は「車両用の光学センサー機器」に言及したが、この時は暗視装置の話が中心だった。実は、暗視装置だけでなく、テレビカメラの搭載事例もある。そして、車両以外の分野でもテレビカメラが使われている。

死角を減らすためのテレビカメラ

クルマの運転免許証を取得するために教習所に行くと、必ず「死角があるから気をつけましょう」という話が出てくる。実際、運転席から見えない範囲というのはどうしてもある。だから、身体や首をひねって周囲の状況を確認する必要があるし、それを補うためにミラーをいろいろ付けている。

それでも完全ではなくて、例えば後方直後の状況はどうあがいても見えないし、狭い道から広い道に出るときの左右確認も往々にして障害物に邪魔される。

そこで最近、後部を見るためのカメラを仕込んだクルマが増えてきている。筆者のクルマにはついていないが、知人のクルマにはついていて、セレクターを「R」に入れると自動的に作動する。そのカメラの映像はカーナビのディスプレイに表示される。

また、左右を向けたカメラをノーズに仕込んで、狭い道から出る時の左右確認を容易にしている事例もある。

それなりに視界に気を使っている市販の乗用車でもそんな状況だが、これが防禦力が最優先の装甲戦闘車両だとどうなるか。そもそも窓が小さい。いや、窓といえる代物ではなくて「のぞき穴」というほうが正しい。

だから、戦車や装甲車の操縦手は、広い視界が欲しい時には頭上のハッチを開けて首を外に出している。天気がいい時はいいが、雨や雪の時は大変だ。

観閲式に登場した90式戦車。砲塔の前方で、操縦手が首を外に突き出している様子がわかる

また、市街戦になると敵がどちらにいるかわからないので、周囲の状況把握は死命を制する大問題になる。

そこで最近、車体の周囲にカメラをいくつも取り付けて、全周視界を確保できるようにした戦車が出てきた。車内に取り付けたディスプレイで、その映像を見る。こうすると、身体を外に出して狙撃される事態は避けやすい。

この周囲監視カメラもそうだし、遠隔操作式ウェポン・ステーション(要するに電子光学センサーと機関砲を組み合わせた無人砲塔)にしろ、「装甲で護られた車体内から操作できる」ところが強くアピールされている。もちろん、外に頭や身体を出して監視するに越したことはないが、それをやって撃たれて死傷した事例はたくさんある。

外に出られないのでテレビカメラ

お次は、海の上の話。

軍艦ではNBC防護、つまり核・生物・化学兵器対策を取り入れていることが多い。その場合、外気をそのまま艦内に取り込むと艦内も汚染されてしまうから、フィルターを通したり、外気の侵入を遮断したりする。また、外部に露出した部分に放射性物質や生物化学兵器が付着した場合に備えて、洗浄用の水を噴射する配管とノズルが至るところに設けてある。

もちろん、そんな場面で乗組員が露天甲板に出るのは望ましくないのだが、もしもそうなってしまった場合、あるいはそういう必要が生じてしまった場合はどうするかというと、艦内に「洗身室」というのがあって、付着物を洗い流せるようになっている。

このほか、レーダーが作動していると強力な電波が出るので外に出てはダメ、ということもある。イージス艦が典型例である。

で、何を言いたいのかというと、「外には出られない、でも外の様子を把握できないと困る」という場面がある、という話である。そこで当節の軍艦は各所にテレビカメラを装備しており、艦橋あるいは戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)に設けたディスプレイで映像を見られるようになっている。

例えば、ミサイル発射器からミサイルを発射する模様をテレビカメラで監視するとか、ヘリ発着甲板における作業の模様を艦橋やCICから見る、とかいった用途が考えられる。艦内の奥深くで窓がないCICはいうまでもないが、艦橋からでも後部のヘリ発着甲板を見るのは物理的に不可能だから、これもカメラが欲しいところである。

米海軍の駆逐艦「ベンフォールド」が備えている監視カメラ。ちゃんとワイパーが付いている!

艦上で運用する場合の特徴として、雨や波を被って視界が妨げられることがないようにワイパーを備えている点が挙げられる。海上自衛隊が護衛艦を一般公開した時に訪れる機会があったら、観察してみよう。意外なほど多数のテレビカメラを、露天部分のあちこちに設けてあるのがわかる。

テレビカメラを備えることの別の利点として、映像を記録しておける点が挙げられる。もしも何か事故や不具合が発生してしまったら、原因究明の際に記録映像が役に立つ。

空中給油機もカメラ仕掛け

「陸」「海」ときたので、「空」も何かあるかな……と思ったら、あった。空中給油機である。

拙稿「航空機の技術とメカニズムの裏側」の第89回で取り上げた、フライング・ブーム方式の空中給油機だ。当初は、機体の後部にブーム・オペレーターが座り、目視でブームを操作していたが、最近の給油機はカメラ仕掛けになって、ブーム・オペレーターは前部でカメラの映像を見ながら操作する方法が主流になった。

ただし、空中給油は昼夜を問わずに行うから、可視光線に対応したテレビカメラでは夜間に困ってしまう。だから、こちらは赤外線センサーを使用している。

そして、給油ブームと、給油する相手の機体(レシーバーという)の位置関係を把握しやすくするために、立体映像を表示できるようにしている。すると、カメラは1台では済まず、複数を設置しなければならない。

オーストラリア空軍のKC-30A(エアバスA320-200MRTT)給油機が備える、受油機を見るためのカメラ。両側面に付いているのは、周辺状況を監視するためのカメラと思われる

こういう仕掛けが必要になるのは、ブーム・オペレーターが手作業でブームを動かしたり伸縮させたりして、受油側の機体の給油リセプタクル(受け口)に突っ込む操作を行っているから。

プローブ&ドローグ方式の場合、給油機は単にホースを伸ばして真っ直ぐ飛んでいるだけなので、カメラはいらない。受油側の機体が、そのホースの先端に設けたドローグに突っ込む受油プローブ(要するに燃料配管を組み込んだ棒状の突出物)を目視できるように、照明用のライトがあればいい。受油プローブはコックピットから見える場所に設置するから、それで用が足りる。