Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。今回は、アニメーションにおける演技やアクションの構築について考える。

演技やアクションの構築のしかたとは

前回まで、作画上の様々なテクニックについて考察してきました。「動き」を表現するにも多くの手法や工夫が必要でした。それらを踏まえた上で、演技やアクションの構築のしかたを考えてみたいと思います。

あるキャラクターを自分の思いどおりに動かそうとするとき、最も重要なポイントはそのアクションに含まれる意味を表現し、さらに観客に伝えることです。実写映像であれば、脚本に基づいて、監督がその意図を役者に伝え、役者はそれを演技で伝えようとしますが、アニメーションでは実写に比べて、わずかや表情の変化や、息づかい、指先の演技などで伝えることはなかなか難しくなります。アニメーションでは、アニメーションならではのアプローチを考えた方が良いでしょう。

その作品の演出プランにも関係してきますが、「誇張しコミカルな動きのある作品」と「リアル指向の作品」では、その内容に大きく違いがでてきます。ここでは、一旦、アニメーションらしい表現について考えてみます。

アニメーションを見ている時に、「熱い物をさわった後に手をフーフーする」、「ダメージを受けて倒れた後、首を振りながら起き上がる」、「偉そうなメガネがうんちくを言う時にフレームを指でちょっと上に上げる」、「デレデレする時に肩をすくめてベロを出す」、「肉の塊に食らいつき、首を横に向けながら噛みちぎる」など、「あーそういうのあるね」というお決まりのアクションがあります。これらはある意味、定型ジェスチャーであり、記号として観客に訴えます。しかし、そもそもは、伝えたいことを補足する「副次アクション」と言われる物です。

「熱い物を触った」という演技を実際にやれば、触って、驚いて手を引き、そして、その手を見るか、手を振って冷まそうとするか、反対の手で押さえる……など、いろいろなリアクションが考えられますが、その選択肢の中で、最も「熱い」を視覚的に伝えられるものは、「手をフーフーする」という演技であると考えられます。逆に「冷たい」ではもっと別に「体中がブルッと震える」という副次アクションが考えられます。こうしたアクションは、瞬間瞬間に効果的に制作者の意図を観客に伝えるサポートをします。メインのアクションの補足を、一連の動きの中に組み込むことでより伝わりやすくする効果があります。ただし、副次アクションは、その記号的な側面から、表現が紋切り型になってしまうという心配もあります。

ここで、自分で副次アクションの演技の計画を建ててみるというのも面白いと思います。小説家が情景や心情を描写するのに「~のようだ」と様々な工夫をこらして表現する様に、「触って熱かった」を表現する方法をオリジナルで考えてみるのは大変チャレンジングで面白い作業です。ただ、ここで気をつけたいのは、例えば「何かを触って驚いて、パニックになる」そして「あわてて台所に行き、冷蔵庫の中に手を突っ込む、そしてフーッと一安心する」というような複雑な表現をした場合、台所への移動や、冷蔵庫の登場に脚本としての必然性がない場合、ただやってみたかったとしか思えない冗漫な表現になってしまい、観客は混乱し、作品のテンポは乱れてしまいます。

あまりに副次アクションが大げさになると、メインのアクションの意味が薄れてしまい「話に尾ひれ背びれがつきすぎて、結局何を言いたいかよくわからなかった人」みたいになってしまうでしょう。そうなるのであれば、楽しい表現を必死で模索するよりは、定型の副次アクションを使ってしまった方が作品としてきれいにまとまるケースも多いです。しかし、リアル系の演技を求める場合は、深く演出にかかわる作画になってくるので、記号としての副次アクションは全く別の話としてとらえてもらった方が良いと思います。

また、演技の設計に置いて、なるべく避けたいのは「熱い!」などとセリフで処理してしまうことです。「ゾゾゾーッ」とか「ドキッ!」とか「キリッ!」とか、メインのアクションを副次的にサポートする部分をセリフに頼ってしまうと、なんだかオタク臭くなります。これは、動画表現よりは、作画枚数を少なくしなければならない状況にあったアニメ作品が、副次アクションの表現を割愛しなければならなかった上での苦肉の演技プランが、そういった表現を生んでいったのだと思います。

演技の設計をする上で、副次アクションはスパイスです。メインの動きの流れに合わせて、作品のテイスト、状況、キャラクターの個性、シーンのテンポ等加味しながら、ベストの味付けが出来る様に試行錯誤をしていった結果、「あの味はあの人にしか出せない!」という作者としての個性的な表現になっていく可能性もあります。アニメーションの作画をやる上で「ただ動かす」から、「面白く工夫しながら動かす」への大きなステップになる部分です。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメシリーズ5作目となる『Boy meets Girl アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。
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