連載コラム『あなたの家計簿見せて! "給料減少時代"の家計診断』では、相談者のプロフィールと実際の家計簿をもとに、5人のFPが順番に、相談者の家計に関する悩みについての解決策をアドバイスします。
【相談内容】
現在、お店に雇われて美容師をしていますが、そろそろ自分でお店を持って独立しようかと考えています。しかし、お店の開業資金がまだ不足しているので不足分は借り入れをしなければならず、また、きちんと軌道に乗るまでは今より収入減になりそうなこともあり、どうしようかと悩んでいます。アドバイスよろしくお願いします。
【プロからの回答です】
- 美容師として独立し、お店を持つという夢を実現するためには、収支計画、事業計画が重要です。会社員と違い自営業は収入が不安定なので、開業資金の借り入れは十分に検討しましょう。開業後の家計はどうなるのか、今のうちに下調べをして今後に備えておきましょう。
(※詳細は以下をご覧ください)
今独立して大丈夫なのか?
現在は美容師としてお勤めですが、ちょうどいい物件が見つかり、独立するかどうかお悩みの草野様。現在用意できている資金は500万円ですが開業には800万円必要とのことで、不足分を借り入れて開業するべきかどうか難しいところですね。自営業者は、事業が軌道に乗るまでは生活費が不足することもあります。収入が減少してもある程度の期間、生活していけるよう予備資金を確保しておきましょう。予備資金は会社員なら生活費の半年分程度でも大丈夫ですが、自営業者の場合は最低でも生活費の1年分は必要です。これからお子様の教育費もかかりますし、独立した場合に生活がどう変わるかを予測し、今独立して大丈夫なのか見てみましょう。
会社員と自営業者で異なる社会保障
自営業者と会社員との大きな違いは、収入が安定しているか、していないかということが挙げられますが、社会保障制度も異なりますので、保障が不足する部分は自分でリスクに備える必要があります。
まず、病気や怪我になった場合の医療保険制度ですが、会社員は健康保険、自営業は国民健康保険と加入先が異なります。国民健康保険の保険料はお住まいの市町村で異なり、前年の収入や年齢、家族構成等で決定します。退職して2年間は健康保険の「任意継続」をすることが可能ですので、保険料の安い方を選択すると良いでしょう。
医療費の自己負担額はどちらも3割負担ですので大きな違いはありませんが、健康保険には、病気や怪我の治療のために仕事を休んだ場合、4日目から最大1年半までは給料の6割が支給されるという「傷病手当金」という制度があります。国民健康保険にはそのような制度はありませんので、仕事ができなくなった場合収入が途絶えてしまう恐れがあります。このような状況に対応するためには、「医療保険」の他に、長期の就業不能に対応する「所得補償保険」や「就業不能保険」などの民間の保険で補うことが可能です。
また、自営業者の年金制度は基礎年金部分の国民年金のみとなり、厚生年金の上乗せ部分がある会社員として働き続けた場合と比較すると、将来受け取る年金額が少なくなります。現在専業主婦でいらっしゃる奥様は、第3号被保険者ですので保険料を負担していませんが、ご主人が自営業者になると奥様も保険料を負担する必要があります。平成25年度の国民年金保険料は1人当たり月額15,040円ですので、毎月3万円以上の保険料の支払いが必要になります。自営業者は定年がないとはいえ、いつかは仕事ができなくなります。公的年金だけの収入では老後の生活は厳しい状況ですので、独立後、収入が安定したら老後資金のことも考えるようにしましょう。
資金には十分に余裕を持って開業しよう
現在加入されている民間の保険は医療保険だけですが、万一の場合の死亡保険が必要ですし、自営業の場合、長期の就業不能になった場合に備えた保険等も欲しいところですので、保険料の負担は現在より多くなります。お子様がまだ1歳ですので教育費はかかっていませんが、開業されると元美容師の奥様も一緒にお仕事に復帰されるのでしょうか。その場合、保育園の費用も発生しますね。このように開業後の生活費は現在より増えることが見込まれますので、開業はもう少し資金が貯まるまで待つのも一つの選択です。
しかし、今回の物件の立地や希少性などを考慮すると良い条件がそろっており、十分に返済できる売り上げが見込める事業計画なら、借り入れも可能でしょう。予備の生活費は最低1年分必要と前述しましたが、事業の運転資金はまた別の話です。事業が軌道に乗るまでのお店の維持費、人件費などの運転資金が開業資金の中に十分に確保されていることが前提です。日本政策金融公庫、信用保証協会、銀行、信用金庫など低金利で借り入れできるところを利用しましょう。
いずれにしても、今後は家計を見直して無駄な支出を減らし、必要な保険料や教育費を確保することが必要です。現在の家計データを拝見すると、食費、光熱費、通信費、レジャー費等がもう少し節約できそうです。合わせて2万円を目標に支出を減らしましょう。ボーナスはほとんど開業資金として貯蓄されていますね。自動車保険や車検も少しでも安い所を見つけましょう。
事業を成功させるには、少しでも不安要素はとりのぞいておき、資金に余裕を持つことが大切だと思われます。夢の実現に向け、今できる準備を進めておきましょう。
<著者プロフィール>
(株)プラチナ・コンシェルジュ ファイナンシャルプランナー 福島佳奈美
金融系SE(システムエンジニア)からファイナンシャルプランナーに転身。Webサイト中心にマネーコラム執筆を行うほか、教育費やライフプランニング、保険、家計見直しなどのセミナー講師、個人相談などの活動を行っている。