インドルピーの下落が止まらない。インド準備銀行(RBI)の必死の介入により、9月最終週は何とか支えられているが、8月、9月の落ち込みは激しい。筆者はTwitterでルピーのレートを追っているのだが、9月第3週などは「暴落」以外の何物でもない落ち方である。もちろん直接的にはギリシャの危機に端を発しているわけだが、これ以上のインフレが進むとインドがもたない。日本政府は円高を利用して海外投資を推奨するなどと言っているが、そんなバラ色の話ではないのだ。

インドルピーの為替レート推移

筆者は感覚的に「1ルピー = 2.5円」と考えていた。もちろん、タイミングによって上げ下げはあるが、ここ数年は概ね2.5円を中心に動いていた。米国ドルに換算する時は「1ドル = 42~43ルピー」といったところだろうか。

ところがインド経済の好調さが反映され、1ルピーが3円を超えた。これはリーマンショック前の2008年のことである。この時は、輸出中心のインドIT産業が苦境に陥った。

しかしリーマンショックでこの状況は一変。ルピーも暴落したため、昨年と一昨年は「1ルピー = 2円」と考えるようになった。さらに昨年末からは1.8円になり、この状況はしばらく続いていた。しかし、さらにルピーの下落は進む。ここ半年間の円に対するルピーの為替レート推移を見てみると……

2011/4/4 1.89836円
2011/5/2 1.83493円
2011/6/6 1.78963円
2011/7/4 1.81975円
2011/8/1 1.7626円
2011/9/5 1.67165円
2011/9/30 1.56944円

9月下旬には一時、「1ルピー = 1.530852円」まで落ちた。ドル換算で「1ドル = 50ルピー」を超えたとの話も聞いた。もう連続で何回目になるだろうか。RBIは金利をさらに上げ、それと同時に為替に介入した。これにより、先週末は何とか1.57円付近を前後するようになった。

3年前、リーマンショックの前から考えると、単純にルピーは半額になった。3円が1.5円である。日本企業から考えると、ルピー建て資産が円換算で半分なくなったわけである。

インドと中国との違い

インドと中国、この2大国は何かと似ている。互いに国境紛争を抱え、2国間でもインド洋での覇権を争っている。最近では南シナ海での覇権争いも起きている状況だ。

国内情勢に関しても、インドはカシミール・アッサム・ハイデラバードの問題を抱えており、中国はチベット・ウィグル・モンゴルの問題を抱えている。

この2大国は、対先進国という観点では常に共同歩調を取り、テーブルの上では激しく握手をしながらテーブルの下で蹴りあっている状況だ。果たして仲が良いのか悪いのか、さっぱりわからない。そしてどちらも国益第一であり、時として「ならず者」になる。

しかし大きな違いもある。

インドが優位なのはやはり食料自給率の高さである。12億人の国民が基本的には自給自足できる。これは強い。

中国が優位なのは貿易黒字である。その差が為替レートの推移にも表れている。同じく新興国代表であるが、中国元にはそれほどの差は出ていない。

2011/4/4 12.86327円
2011/5/2 12.47708円
2011/6/6 12.33057円
2011/7/4 12.51266円
2011/8/1 12.06697円
2011/9/5 12.04653円
2011/9/30 12.01687円

基本的に貿易赤字のインドは、海外直接投資(FDI)による資金流入で帳尻を合わせている。それもこれも経済成長が維持できるかどうかにかかっている。

生き残り競争に敗れた空を飛ばないカワセミ

ただでさえインフレが進むインドには、今回のルピー暴落は痛い。輸入品が一気に値上げラッシュとなる。特に原油である。

インドのビールはウマい。日本ではビールを飲まない筆者であるが、インドのキングフィッシャービール(缶)は大好きだ。

何年前だったか、そのキングフィッシャーが航空会社を経営し、次々と買収を繰り返して、国内民間2位の航空会社にまで成長した。赤い飛行機である。

インドの航空産業の競争は激しい。次々と新しい企業が参入し、次々と敗れ去っていく。たしか民間大手のサハラ航空なんかも消えてしまった。

そして9月28日のTHE HINDU紙は、キングフィッシャー航空のLCC格安航空事業(旧デカン航空事業)からの撤退を報じた。原因は単純。金利上昇と燃料の値上がりである。

インフレとルピー暴落にはキングフィッシャーでさえ退場を余儀なくされた。地に堕ちたキングフィッシャー(カワセミ)である。他産業でも次々と同じような話が出てくるだろう。

キングフィッシャービール

サイクロンの季節が近づいた

気になることが3点ある。

一つはインドのビザ取得がこの10月1日からまた厳しくなったことだ。

今回は観光ビザが対象で、事実上バックパッカーはインド渡航が困難になった。

基本的には日本の入管政策に対する報復処置なんだろうが、そこまで厳しくする必要性があるのか。

もう1点は、同じくTHE HINDU紙が27日に報じたグジャラート州の雌牛の屠殺禁止法案である。屠殺目的の移動も禁止とのことだ。

インド人は牛を食べないと言われているが、実はそんなことはない。鶏肉と牛肉の消費量にはそれほどの差はないのだ。

敬虔なヒンドゥー教徒は食べないが、貧しい人やイスラム教徒は牛肉を食べる。従って、これは実態をまったく無視した法律である。

怖いのは、この裏にヒンドゥー至上主義者がいる(と想像される)ことである。次回総選挙で政権奪回と言われているが、多様性を否定する彼らが法律を作れば、インドの良さはなくなってしまう。次回のコラムは、このどちらかについて書くつもりだ。

屠殺場に運ばれるインドの牛

そして本稿の最後に……10月、南インドもサイクロンの季節になった。毎年のように同じような被害が出る。

テロと列車事故は毎月の行事(のようなもの)だが、サイクロンはこの時期限定のものである。抜本的な対策を何も実施しないから、同じ被害が毎年出ることになる。インドでは最も嫌な季節である。

もっとも、日本も台風で同じようなことが起きているので、他国のことをとやかく言ってる場合ではない。先日の台風、筆者は事務所にこもっていたのでわからなかったが、列島縦断、被害も大きかったんですね。地元府中でも大木が折れてしまったようだ。

府中市内でも台風の爪あとが

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。

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