連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
出版関係の仕事をしています。私の会社では2年前から裁量労働制が導入されました。私は取材先との関係で朝9時から出勤していますが、私の職務上、上司の取材に同席することも多く、取材先との打ち合わせを、突然上司が夜の9時以降に入れることも珍しくありません。そのため、自分の職務はすでに終わっているにも関わらず、上司の都合に合わせなければなりません。いくら裁量労働制といってもこれは残業になるのではないでしょうか?

裁量労働制になると、どういった場合でも残業代はもらえないのでしょうか?

【プロからの回答です】

裁量労働制のメリット、デメリットは?

裁量労働制をとる会社は最近増えていますよね。裁量労働制を採用するには一定の条件をクリアする必要がありますが、この会社は条件を満たしていることを前提に解説いたします。

そもそも、裁量労働制とは、一定の業務につく労働者について、実際の労働時間とは関係なく、労使(労働者と使用者)であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度で、基本的に時間外労働という概念がありません。また、裁量労働制には、専門的な職種の労働者に関する「専門業務型」と、経営の中枢部門で企画・立案・調査・分析業務に従事する労働者に関する「企画業務型」があります。

裁量労働制のメリットは、勤務時間帯が固定されないので出勤・退勤の時間を自由に決められることがあげられますが、デメリットとして、実労働時間の管理がされないため長時間労働の温床になる可能性があります。

フレックスタイムとの違いを簡単に言うと、裁量労働制は、実際に働いた時間にかかわらず一定時間働いたものとみなすのに対して、フレックスタイムは実際に働いた時間しか働いたことにはなりません。フレックスタイムは、一定期間の総労働時間は決まっていますが、日々の始業時刻・終業時刻を労働者に任せる制度だからです。

22時以降の深夜労働や休日出勤に関しても手当を支払う必要がある

企業界では成果主義賃金に対する関心が高く、裁量労働制の利用例が増加しています。業種としては、研究者、デザイナー、新聞記者などが代表的です。

裁量労働制ではなく、通常の労働形態の場合は、原則として残業代を請求できます。残業代請求をする際は、タイムカードなど出退勤時刻がわかる証拠、雇用契約書、就業規則、給料明細などを準備するとよいでしょう。

タイムカードがなく全く勤怠管理されていない会社では、出退勤時刻に関する証拠を自分で作成しておく必要があります。出社時と退社時に会社のパソコンから自分のパソコンに毎日メールをして出退勤時刻の証拠にした例もありました。

これに対して、裁量労働制の場合、基本的に残業代は支払われません。ただし、22時以降の深夜労働や休日出勤に関しても手当を支払う必要があります。

退勤時刻を日々証拠化して、深夜手当を請求できるようにしておく

ご相談者は、裁量労働制で勤務しているとのことですので、原則としては残業代を請求することは難しいと思われます。しかし、21時から打ち合わせが多々入ることがあるとのことですから、22時以降の深夜労働をしている可能性があります。ですので、深夜労働をしていることを証明するためにも、退勤時刻を日々証拠化して、深夜手当を請求できるようにしておくことが良いと思います。

政府は、現在、裁量労働制に関して、対象業務を一部営業職に拡大することや、年収1075万円以上の高度な専門知識や技術、経験を持つ労働者の残業代を支給しなくてよいという、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションの導入を検討しています。私としては、この法改正は労働者にとっては働きにくい環境になってしまうことは目に見えているような気がします。働く人々にとって本当に良いものであるか、ぜひとも導入する前に慎重に議論を重ねていただきたいところです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)

弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。