「大物実業家」と「人気ラッパー」という二足のわらじを履き続けるジェイ・Zの話をさらに続ける。
【ネッツの新ロゴ発表にあわせてリリースされたイメージビデオ。完全にタテノリである】
前回の原稿に記した通り、ロシア人大富豪のミハイル・プロホロフ(Mikhail Prokhorov)や、米国の不動産開発業者ブルース・ラトナー(Bruce Ratner)といった大物とともに、NBAブルックリン・ネッツ(Brooklyn Nets)とその本拠地バークレイズ・センター(Barclays Center)の経営に本格的に関わりだしたジェイ・Zは、いまのところかなりしたたかに、しかも「自分の好きにやっている」ような印象だ。とくにネッツについては、大株主のプロホロフが母国での政治にクビを突っ込んでいるのをいいことに、かなり「ハンズオン」でネッツの経営に関わっているようで、4月末に発表されたチームの新しい2つのロゴも、ジェイ・Zが自ら考案したとされている。
Jilted Brooklyn Finds Hope in the Hapless Nets - New York Times
またNBA.comの公式ストアでは、このモノトーン(黒と白)のロゴをあしらったTシャツなどの商品がすでに発売されているが、どれもストリート系の匂いがプンプンするものばかり。全体に、どちらかというとカラフルなモノが目立つ他チームのそれとは大きく異なっている。御丁寧にジェイ・Zがプロデュースを手がけるヘッドフォンのネッツモデル「Skullcandy Brooklyn Nets Aviator」」なんて代物まで売られていたりするから恐れ入ってしまう。
さらに、商売人としての面目躍如と思えるのは、ジェイ・Zがチーム(ネッツ)だけでなく、バークレイズ・センターの運営会社(Brooklyn Arena LLC)にも出資し、その取締役にも任命されているところ。
Jay-Z named director at Barclays Arena firm - New York Post
このNYPost記事には、「ジェイ・Zは単に取締役会に顔を出すだけでなく、同センターの日々のオペレーションについても指示を出していくつもり」という記述がある。
すでにバークレイズ・センター内には、やはりジェイ・Zが共同オーナーを務める「40/40 Club」というクラブの支店として「Vault」という会員制高級クラブの開設が決まっており、ジェイ・Zはこのクラブのプロデュースにも口を出している模様。
さらに、9月28日には同センターのこけら落としとして自らのライブを予定するなど、文字通り大車輪の活躍といえそうだ。
ブルックリンという土地は、1958年にプロ野球(MLB)のブルックリン・ドジャースがロサンゼルスに引っ越してしまい、それ以来プロスポーツ・チームの不在が長く続いていた。ジャッキー・ロビンソンというMLB初の黒人選手——彼の背番号「42」はその後全チームで永久欠番になっている――の誕生にも力を貸したこの名門チームが引っ越したきっかけも本拠地エベッツ・フィールドに代わる新球場建設計画の頓挫によるもの。そうしたことから、バークレイズ・センターの建設とネッツの誘致によって、この「エベッツフィールドの呪い」が半世紀ぶりに解けてくれる、といった地元の期待も盛り上がるいっぽう、再開発計画への反対派の間では、こけら落としとなるライブ当日の晩に抗議行動に出るか、といった議論もあるようだ。
Opponents Plan Best Way To Protest The Barclays Center - New York Times
もっとも肝心なネッツのほうは、ここに来て秋からの新シーズンに向けた陣容を固めつつある。NBAで7月から解禁になった選手の再契約・移籍交渉では、チームの柱であり、ロンドン五輪の米国代表メンバーにも選ばれているデロン・ウィリアムズ(Deron Williams)という人気選手との再契約に成功(総額1億ドルの5年契約で正式発表は11日以降)。また、故郷ダラスのチーム、マーベリクスへの移籍にほぼ気持ちが固まりかけていたウィリアムズの翻意を促すために、何度もオールスター選手に選ばれたことのあるジョー・ジョンソン(Joe Johnson)というベテラン選手を獲得。さらに、欧州でいま一、二を争うパワーフォワードとされる、ミルザ・テレトヴィッチ(Mirza Teletovic)というボズニア人選手の獲得や他の主力選手との契約更新にも成功したことなどが伝えられている。先シーズンの勝率3割3分3厘(22勝44敗)、その前々年のシーズンにはなんと12勝70敗という大記録(!)を残したネッツだが、新たな陣容が整ってきたことでさっそく「プレイオフに残れるチームになる」といった期待の声も上がっているようだ。
Nets Place Star Point Guard Atop Their New Arena - New York Times
共同オーナーであるジェイ・Zがどんなに目立っても、肝心のチームが強くならなくては、ネッツもバークレイズ・センターも事業価値は上がらない。ましてやバスケット・ボール好きとしては、せっかくコートサイドに陣取りながら、自分のチームが負け試合ばかり、というのでは面白くなかろう。将来有望なチームの骨格が固まってきたことで、ジェイ・Zとしてもかなりほっとしているのではないか。
最後にビデオをもうひとつ。今年春にあった「SXSW」でのジェイ・Zのライブ。音楽+テクノロジーをテーマとしたSXSWは、2007年の時にTwitterが一挙にブレイクしたカンファレンスとして日本でも知られているが、音楽関連の催しについてはあまりよく知られていないかもしれない。ちなみにこちらもアメックスがスポンサードした「Amex Sync Show」という催しだったらしい。